波乱の「英国EU離脱」は急転直下の3月合意も

親EU派とEU懐疑派の攻防、諦めないメイ首相

しかし、筆者はそう思わない。すでに12日の投票前に強硬離脱派の一部は、安全策の時限性をめぐって十分な法的保証が得られれば、政府の合意案を受け入れる可能性を示唆していた。12日の投票直前に、法的助言を行う立場にある法務長官が、今回の共同の法律文書と声明は、英国が半永久的に安全策にとどまるリスクを軽減するものだが、法律上のリスクがなくなるわけではないと発言したことで、強硬離脱派は主張を取り下げる大義名分を失った。

現在、政府は水面下で保守党内の強硬離脱派とDUPのメンバーと接触し、どの程度の法的助言であれば受け入れ可能かを議論している。例えば、国際法に関する規則を定めたウィーン条約法の第62条(事情の根本的変化がある場合の条約からの脱退規定)を用いて、安全策の効力を停止することが可能との追加の法的助言を行うことが検討されているようだ。

政府案を拒否し続ければ穏健路線に傾く

これまで政府案を批判していた強硬離脱派が、なぜ政府案の受け入れに傾く可能性があるのか。強硬離脱派が恐れるのは、このまま政府案の受け入れを拒否し続けると、より穏健な離脱や長期間の協議期限延長、さらには国民投票のやり直しを通じて離脱できないリスクが高まるためだ。メイ首相の議会に対するグリップは弱まっており、超党派の親EU派議員が関税同盟残留や単一市場残留などの穏健な離脱案での多数派形成の機会をうかがっている。

2回目の投票が再び大差で否決されたことを受け、EU側は数カ月程度延長したところでメイ首相の合意案を議会が受け入れるのは難しいと考え始めており、長期延長や政府の離脱方針の変更を呼び掛けている。さらに、弱体化したメイ首相が退陣するのは時間の問題で、各種の世論調査やブックメーカーの賭け率は、強硬離脱派から後継党首(≒後継首相)が選出される可能性が高いことを示唆している。

強硬離脱派としては、政府の合意案に全面的に賛成することはできないが、まずは離脱を確定させ、その後の将来関係協議で自分たちの主張の実現を目指していく方が得策との判断が働く可能性がある。強硬離脱派も降りどころを探っている感があり、追加の法的助言ではしごをかけてあげるというわけだ。それでも一押しが足らないのであれば、メイ首相が離脱確定後に退任することを条件に、合意の受け入れを呼び掛ける切り札もある。DUPを動かすために、北アイルランドに追加の予算配分を約束することも考えられる。

保守党内の強硬離脱派の中にも温度差があり、安全策を撤回しない限り、いかなる離脱案も受け入れることができないと考える議員も20名程度いる模様だ。逆に造反議員の中には、あくまでEU残留を求め、離脱を前提とする合意案に反対する議員も10名近くいる。149票差を覆すためには、強硬離脱派の多くを説得したうえで、20名前後の野党議員の協力が必要となる。

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