若者のヤル気を高める人事システム、腕を磨く仕事で鍛える

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 ただし「重要なのは技術の企画力。いたずらに規模は追わない」(飯塚社長)。実際に07年からは大きな売上高のあった他社ブランド製品の事業を手控え、自社ブランド製品へ最新技術を盛り込むことに傾注し再出発した。

結果、売上高100億円台で社員数約120人・平均年齢約33歳という小ぶりで若い企業ながら、得意の薄型テレビ向けでは韓国サムスン電子、ソニー、パナソニックなど大手各社が採用。少ない電線本数で高精細や倍速表示の画像データの送受信を可能とした技術に特長があり、画像信号伝送用では世界シェア約3割を誇る。

独自の半導体集積回路の設計・開発には大学院卒の若手技術者の活躍が欠かせない。同社で人事を担当する高田康裕取締役は「設計・開発担当技術者も世の中の動きがわかるような人事異動としている」と語る。

求められる技術が肌身でわかるからこそ、独自の発想を盛り込んだ回路の設計・開発に熱中できる。そして幸いにも対象がテレビの画像という目で見えるものであるため、自分の仕事が美しい画像の実現に寄与できたか、自分で成否が見えるのだ。

山崎大輔さん(28)は早稲田大学大学院理工学研究科卒。「将来のソニーに就職する」と、05年同社に入社した。

最初の配属先は先輩技術者が設計・開発した回路を各種試験装置で製品評価する部署。ここで二つの発見をした。「いかに先輩が顧客の期待を背負って設計・開発に取り組んでいるか」。そして「手かざしで回路の不具合な部分がわかる」こと。もし設計した回路に電荷がたまりすぎる、通称「重い」部分があると、電磁雑音などの影響で正常に動作しなくなりがち。そうなれば美しい画像は得られない。だがそうした部分も、かざした手に発生するイオンの多さで事前に発見できるのだ。「こうしたアナログ的な、匠っぽさに魅了された」と山崎さんは語る。

次の配属先は技術サポート。先輩技術者が設計・開発した半導体集積回路をプリント配線基板に搭載しても思うような画像とならず困っている顧客を訪れ、プリント配線基板の改善を提案する仕事だ。高田取締役は「顧客と深く組み合うような部署を経験させ、たとえば薄型テレビ各社が必要としている技術はなにか、市場のスイートスポットを見いだせる目を育てている」と狙いを語る。

自身も東京大学客員教授や日本半導体ベンチャー協会の会長を務めてきた飯塚社長は「必要なのは、自分の技術の世界に閉じこもらず、今世の中に何が必要なのか見渡せる人材」と語る。

まず自分の仕事の大切さを知り、顧客との接点を持つ。とかく視野が狭くなりがちな技術者の世界だからこそ、重要な要素といえるだろう。山崎さんは08年4月から、念願の回路設計に取り組んでいる。

(週刊東洋経済)

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