製紙各社、10年ぶり「新聞用紙値上げ」の覚悟 聖域についにメス、業績不振で「背水の陣」

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だが、ふたを開けてみると、2月時点で20%に近い値上げが通った。需要家側の印刷会社幹部は「(製紙各社が)近年になく強硬だった」と指摘する。加えて、2018年7月の西日本豪雨や同年9月の北海道地震、台風などの災害で夏場の工場稼働率が落ち込んだうえに、日本製紙の工場設備トラブル、2018年春に大王製紙、同年秋に三菱製紙が抄紙機を停機するなどの能力削減が重なり、在庫は極めて低水準にとどまる。「刷りたくても紙がない」と印刷会社が嘆くほどだ。

他にも値上げが打ち出された品種は、公表されているだけでも包装用紙や壁紙原紙、紙管原紙、液体用紙容器、薄葉印刷紙、グラシン紙、色画用紙、レーヨン紙・雲竜紙など多岐に及ぶ。理由は原材料や燃料代、物流費上昇と共通している。いずれも満額とはいかないまでも一定の値上げを獲得しており、製紙会社が一息つけることは間違いなさそうだ。

王子HDは悲願の営業利益1000億円超え

もっとも、一息つくといっても、製紙会社の業績は一様ではない。王子HDの今2019年3月期は、海外のパルプ販売や段ボール事業が牽引して、営業利益は1100億円(前期比55.4%増)と長年の悲願だった1000億円超えを達成する見込みだ。海外事業強化は他社より数段階早く、2019年3月期の予想営業利益のうち、海外子会社は7割強を占める。「国内紙需要の減少」を見越した海外展開が成果を上げており、今回の値上げが不振の国内事業を回復させれば、さらなる増益が期待できる。

一方、国内主体の日本製紙は2020年3月期、生産能力2割削減となる生産体制再編を実施する。値上げと再編による固定費減少が業績の追い風となるが、海外事業を加速する王子HDとは対照的に、身の丈を縮めるコスト圧縮でとりあえずの利益をひねり出す状況だ。

10年ぶりに新聞用紙値上げという聖域に手をつけ、紙容器や家庭紙など成長分野への転換を進めなければならないが、その帰趨はまだ見えない。

鶴見 昌憲 東洋経済 記者

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つるみ まさのり / Masanori Tsurumi

紙パルプ、印刷会社等を担当

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