旧博物館動物園駅、「変えない」修復のこだわり

東京藝大・日比野克彦氏と京成電鉄がタッグ

感慨深かったのは「落書き」だという。駅舎の中に残っていた落書きを一つひとつ写真に撮り、それを各部署で回覧して、残す落書きを選んでいった。最初、回覧を作った時には、ほとんどの落書きが消されてしまうのだろう、と思ったという。

開業当時の博物館動物園駅舎(写真:京成電鉄)

しかし、久保田氏の元に戻ってきた回覧には「消去」の赤い文字はほとんど見当たらなかった。あからさまな悪口や雑言だったり、住所や人名が詳細に記載されているもの以外は、どの部署の誰もが「残すべきだ」と考えたのだ。駅舎を落書きを含めたそのままに近い形で現存させたいと、そんな思いを抱いていたのだ。

修復が終わってからも普通の駅舎に求められるものとはまったく違う要求をされた。照明もその1つである。もともとは、天井から2つ、床から2つ、クロスさせるように設置する予定だったが、何となくイメージが違う。結果、下からすべての照明で照らしあげたほうがより天井の味わいを生かせることがわかった。光の色も形が正確に見える白い光ではなく、美しさを際立たせるオレンジ色が採用された。 久保田氏は感じた。シャッターといい、落書きといい、照明といい、社内に新しい風が吹いている、旧博物館動物園駅がアートを呼んできている、と。

床に突き刺さった巨大なうさぎ

駅舎内で展示されたアートには度肝を抜かれる。床に巨大なうさぎが突き刺さっているのだ。壊れた床はもう一度修復するのだろうか。久保田氏は笑って否定した。「あの散らばっている床材は、上に乗っているだけなんです」。なんという再現性。筆者の余計な心配だった。

床に突き刺さった巨大なうさぎ(筆者撮影)

そんな久保田氏たちが修復した駅舎を見て、日比野氏は言った。「ドームも古さを残したまま安全性が確保されてしっかり見えている。何より素敵だと思ったのは階段から下がのぞけるガラスの扉だ。いつか切符売り場やホームにも入っていけたらいいな、と希望を持てる作りなのが、とてもいい」

さらに、文化施設としての価値も高い、と日比野氏は続ける。「旧博物館動物園駅は決して大きなスペースではないが、あの天井、あの階段、そして大きな踊り場。この場所はアーティストたちの心を刺激する、いろんな芸術のどこにもない受け皿になることができる。この場所で縛りがない、どこにもない発想が出てくる新しいエンターテインメントを表現してほしい」

古いまま、美しく残っていた旧博物館動物園駅は、奇跡のアートスペースとして新しく生まれ変わった。うさぎの展示はすでに終了しているが、今後も目が離せない上野の新名所の登場だ。

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