旧博物館動物園駅、「変えない」修復のこだわり

東京藝大・日比野克彦氏と京成電鉄がタッグ

今までにはない発想である。言われてみれば、そのとおりだ。

博物館や動物園がデザインされた駅舎の扉(筆者撮影)

制作を進めていくうちに今度は日比野氏より、「扉の絵は上野の文化施設をモチーフにしてはどうか」という提案があった。

誰かがデザインして作家性を出すよりも、皆に愛されている上野動物園や東京国立博物館、国立科学博物館などのアイコンを使ったほうが、上野のパブリックな空間の1つとして認知される。通りがかった子どもが親に「このマークはなに?」と聞いた時に「これは、動物園だよ。こっちは博物園」と上野に親しんでもらうのにも役に立つ。

修復されたドーム(筆者撮影)
当時のドームは照明で輝いていた(写真:京成電鉄)

そして、久保田氏が修復に当たって最も心を砕いたのが「安全」「清掃」の2点だったという。 安全で一番大変だったのは天井のドームだ。肉眼で、あるいはテレビやインターネットで旧博物館動物園駅のドームを見た人は驚くだろうが、あの巨大な丸い屋根は1枚1枚の四角いタイルをつなぎ合わせたものではなく、巨大な漆喰のドームが天井にはめ込まれていたのだ。これには久保田氏も驚いた。

建物そのものを支柱として、金属のフックで支えているその強度について慎重に調査を重ね、安全が確信できたところでかぶせていた覆いを外した。そして漆喰が剥がれ落ちてこないように、丁寧に修復した。この大きなドーム型の天井にはそれほど価値があると久保田氏は目を輝かす。「この漆喰の天井を作れる職人は今、日本にはほとんどいないのではないのでしょうか」。1933(昭和8)年に撮られたセピア色の写真にも写っているこのドーム型の天井、歴史を感じながら味わってほしい。

少しだけ「失敗」もした

古い施設なだけに、清掃もまた再公開に当たって重要な仕事になる。主な作業は水で洗う、洗剤で洗う、の2つだ。水で洗うにせよ、洗剤で洗うにせよ、その回数でまったく仕上がりが違ってくる。パッチテストをするように「ここは水だけで2回洗おう」「ここは汚れがひどいから洗剤を使うけれど、2回使うと白くなりすぎるので1回だけにしておこう」などと場所や汚れの質によって、掃除の仕方にバリエーションを持たせた。あらかじめ目立たない場所で実験を繰り返し、清掃によって傷つけることなく、元の姿を再現できるようにしていったという。

「実は……」と久保田氏が内緒話をしてくれた。「少しだけ失敗もしちゃっているんです」。詳しく聞いてみると、最初、目立たないところで試してみようと駅の裏側を洗剤で洗ってみたところ、思った以上に白くなってしまい、ほかの外壁部分は水だけで洗ったそうだ。裏にまわると少しだけきれいになりすぎてしまった駅舎の背中が見えるので、こっそり覗いてみてほしい。

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