家賃90万円滞納を妻に隠した元エリートの破滅 29歳で独立も失敗、離婚→自己破産に陥った

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裁判所から届いた訴状は、幸運にも自宅で自分が受け取りました。送達場所を会社にしてもらうよう書面を出せば、それ以降の書類は会社に送られ、訴訟のことを理香さんに知られることはありません。

隠そうというより、一発大きな仕事が入れば、それですべてがクリアになる、そんな甘い思いで現実から目を背けていたのでしょう。 

けれども泣き叫ぶ理香さんからの電話で、一人さんのそんな甘い夢はもろくも崩れ去ったのです。

育ちのいい夫婦が堕ちた「家賃滞納」の闇

育ちのいいこのご夫婦を見て、誰が「家賃滞納」を想像するでしょうか。

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強制執行の現場で、取り乱して泣き叫んでいらっしゃった理香さん。お家にお客さんが来たと勘違いして、喜びながら執行官にまとわりつく小さなお嬢さん。この両極端な光景は、とても残酷で切ないものでした。

この後、このご夫婦は離婚され、相馬さんは破産の手続きを取られました。

あのまま大手の広告代理店に勤務していたら、こんなことにはならなかったのではと思います。あるいはもっと起業に準備の時間をかけていたら。

それよりも何よりも、正直に理香さんに会社のこと、資金繰りのことを伝えられていれば……。そこには騙そうという気持ちはなく、大切な理香さんを心配させたくないという思いやりの気持ちが、結果、夫婦を離婚に導いてしまいました。

人生にはたくさんの分岐点があって、誰しもがそのときできうる最善の選択をしているはずです。しかしその選択は、予想だにしない結果をつきつける可能性を秘めているということでしょう。すべてを「たら・れば」でいくら後悔しても、残念ながら、もう後戻りはできないのです。

太田垣 章子 OAG司法書士法人 代表司法書士

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おおたがき あやこ / Ayako Ootagaki

専業主婦だった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行い、会場は立ち見が出るほどの人気講師でもある。著書に『老後に住める家がない!─明日は我が身の〝漂流老人〟問題』(ポプラ新書)、『あなたが独りで倒れて困ること30─1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)などがある。

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