市況悪化はまだ2回表、回復に4、5年かかる--宮原耕治・日本郵船社長
-- 09~11年度の船舶投資を15%減らし1兆~1兆0500億円にする計画ですね。
不急のものはできるだけ先に延ばそう、ということです。グラウンドが縮んだ分、船隊計画を縮小していかないといけません。古船をスクラップし、返船する時期が来た用船は返しっぱなしで新規用船はしないとか、さらには期限が来ない船でも不経済船は期限前解約のようなことをやって、身軽にしていかないといけません。いわば、減量作戦です。
12月中旬には全役員を日曜日に集めて、「(景気悪化を)『野球に例えると4、5回に来ている』と他業界は言うが、海運は違うぞ。いつものように景気の動きよりも遅れるので、まだ2回表くらい。2、3年で回復するどころか、4、5年かかるかもしらんぞ。そのつもりで対策をしっかりやれ」と話をしました。
-- 逆張りでリスクを取りに行く、という発想はありますか。
そういう局面は十分ありうるんじゃないかと思っています。企業淘汰が始まり、欧米の船会社の破綻が出てくるでしょう。4、5年後の風景はだいぶ変わっていると思います。強いものが生き残る。そうでない船会社が破綻していく中で、とてもいい船を持っている、日本郵船にはない機能を持っている船会社があれば、買うことも考えます。
-- 適正なBDIの水準というのはどのくらいなのでしょうか。中国の中小鉄鋼メーカーが鉄鉱石輸入を再開したことで、BDIは12月中旬に800台を回復しました。
中小鉄鋼メーカーの輸入再開だけではBDIの上昇は長続きしません。また、足元の800台ではペイライン(採算線)にはるかに及びません。特にケープサイズは、1日の用船料で08年央に一時30万ドル近くまで上昇した後に1000ドル台まで落ち込みました。ケープサイズの用船料は過去20年、1・5万~2万ドルで推移してきました。現在のペイラインは3万ドルくらいですから、3万~4万ドルがケープサイズの適正水準なのでしょう。BDIでいうと2500~3000くらいです。
-- 12月にはBDIが上昇に転じた一方で、FFA(運賃先物指数)が下がりました。
中国政府は4兆元の景気対策をやると言っています。真水がどのくらいかはわからないが、鉄鉱石でいうと1億トンの新規需要が生まれる計算になります。4兆元の具体的な姿が見えたら、先物指数にも好影響が出てくるでしょう。
-- 市況急落の一方で原油価格は3分の1の水準に低下しました。
外航船が燃料とするC重油は200ドル台まで下がっているが、それによる燃料費の低減よりも、荷物が減ってレベニュー(収入)が落ち込むマイナス面のほうが大きい。荷動きは景気に遅行するので10~12月期はそこそこ荷物を確保できますが、1~3月期は中国の旧正月もあり、荷動きの鈍化が心配です。
-- コンテナ事業は赤字です。4、5年後の風景の中で、日本郵船はコンテナ事業を継続していますか。
陸に揚げておしまい、の単なるコンテナ事業ではなくて、航空を含めた総合サービスによる「付加価値を生む製品物流」を旗印にやってきました。ターミナル事業の拡充のために、2年ほど前にベルギーの欧州最大の自動車ターミナルを100億円で買収。顧客のJIT(ジャスト・イン・タイム)物流を支援しています。こうした戦略をとっている会社は世界的に見ても2、3社くらいしかありません。
-- 全日本空輸から全保有株を買い取った日本貨物航空(NCA)も赤字が続いています。
買い取ってからの3年間は機体を廃却するなどリストラの3年間でした。パイロットも一から養成しました。整備などを全日空さんにお願いしてきましたが、08年4月からは自前の整備士やパイロットがそろい、ようやく自立しました。まさにこれから、というところでドンと世界同時不況がやってきましたが、欧州-南米航路など日本の航空会社がこれまでやってこなかったところに需要があります。航空事業は4、5年後に花が咲いているでしょう。
-- 太陽光エネルギーを動力源とする自動車船が08年12月に出航しました。
船員の生活用に太陽光パネルを使う船はこれまでもありましたが、動力に使うのは世界で初めてです。最初は毎時40万キロワット、動力の0・3%しか賄いませんが、10年にはパネルの枚数を増やして毎時250万キロワット、1・9%まで能力を引き上げます。その後は蓄電池やパネルの性能向上で、最大10%の動力を太陽光にする計画です。