生活困窮者を囲い込む「大規模無低」のカラクリ 生活保護受給者の「収容」はなぜ加速するのか

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生活保護法では生活扶助は被保護者の居宅において行うという「居宅保護」の原則が定められている。居宅での保護ができない場合に限り施設に入所させるとされ、施設保護は例外という位置づけだ。だが実際に、多くの福祉事務所の現場では、施設入所が生活保護開始の条件かのように説明されることが少なくない。

今回の厚労省の検討会は、生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」の排除を目的の1つに掲げている。無低をめぐる構造問題にメスを入れるべきだが、少なくともこれまでの議論は「無低の存在ありき」の施設保護を前提にした話ばかりに終始している。

簡易個室については踏み込み不足とはいえ規制の方向性が打ち出されたが、長期にわたる入所やサービス内容に見合わない高額な利用料については手付かずのままだ。無低問題に詳しく同検討会の構成員でもある、日本福祉大学の山田壮志郎准教授は、「原則3カ月以内、最大6カ月を目安に入所期間ないし契約期間を限定すべきだ」と主張する。

社会福祉士会から強い懸念

社会福祉の職能団体からも懸念の声が上がる。2月に入り、埼玉県社会福祉士会、東京社会福祉士会、千葉県社会福祉士会から、立て続けに厚労省の検討会宛の声明、意見が示された。そこでは簡易個室の廃止に向けての具体的スケジュール・段階の明示や、入所期間の短縮化、検討会に当事者の意見が反映されることなどを求めている。

無低の今後のあり方を議論する厚労省の検討会。SSSの菱田理事長も構成員の1人(記者撮影)

実際、検討会の構成員は山田准教授のような学識者を除き、施設運営者と自治体幹部が占める。SSSの菱田理事長も構成員の1人だ。無低への入所を余儀なくされている当事者の意見は反映される仕組みとなっていない。千葉県弁護士会は昨年11月の会長声明で、「事業の運営に対する規制のあり方を検討するうえで、中立的、且つ費用面で利害相反する利用者の立場に純粋に寄り添う議論ができるのか、疑問なしとは言えない」と危惧を表明している。

検討会では施設運営者側から、金銭管理面や生活習慣面の課題を挙げ、入所者の居宅生活の難しさが主張されてきた。ただ今日では、認知症の高齢者など要介護者や重度の障害者であっても、できるだけ住み慣れた地域での生活を続けられるよう支援する地域包括ケアが社会福祉政策の根幹となっている。生活困窮者にのみ、逆行する「施設収容」を是とするならば、それは生活保護受給者への差別以外の何物でもないだろう。

風間 直樹 『週刊東洋経済』編集長

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政経学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。14年8月から17年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、19年1月から調査報道部、同年10月より現職。著書に『雇用融解』(07年)、『融解連鎖』(10年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(13年)など。

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