ヨネックスが自転車に参入するワケ 超円高をしのいだ新潟工場で一貫開発

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記者会見に臨むヨネックス経営陣。左が米山勉社長

軽量化しても剛性強度を保てるよう「X-フラーレン」と呼ばれるナノテク素材をフレーム全体に使い、高い弾性と精密な復元性を併せ持つチタン合金「ゴムメタル」もフレームの一部に採用。ゴムメタルはトヨタ自動車グループが開発し、曲げても元に戻るメガネフレームの素材としても有名だ。

今回の新事業では、ヨネックス創業の地である新潟県長岡市の生産・開発拠点「新潟生産本部」が主導的な役割を果たしたことも特筆される。

「20世紀後半には、ほとんどのラケットメーカーは、中国や東南アジアに生産をシフトしたが、『最高の製品は自分たちで作る』ことを重視し、1ドル=80円を切っても新潟で作り続けてきた」と米山勉社長は、発表記者会見で胸を張った。

同社でも、バドミントン用ラケットの場合、単価1万円以下の普及品では台湾など海外生産を進めている。だが、それよりグレードの高いトッププレーヤー向け製品は、今でもほとんどが新潟で作られており、「made in Japan」だ。超円高下でも国内工場を維持してきたことで、「今では100カ国以上に新潟製バドミントンラケットを輸出している」(米山社長)。

今回のカーボネックスも、開発したのは新潟生産本部。5年ほど前から秘密裏のプロジェクトを立ち上げ、サイクル競技関係者などからも助言を得つつ、新潟生産本部が開発から生産まで一貫して行ってきた。試作車の試乗も、田園風景の広がる長岡市内などで密かに行われたという。

Made in Japanを背景に、五輪でも存在感

スポーツ用品業界では、全体としては中国などでの海外生産比率が圧倒的に高いが、トップアスリート向けやハイグレード品は国内で開発・生産を行うケースが少なくない。そうした国内工場の存在がグローバルでの競争力を底上げしている面もある。

ヨネックスの場合、バドミントンが夏季五輪正式種目となったバルセロナ五輪(1992年)以来、昨年のロンドン五輪まで6大会連続で公式用具・公式ストリンガー(ラケットのネットの調整など)の座を獲得し続けてきた。当然、2020年の東京五輪でも、バドミントンの公式用具・ストリンガーの提供を狙ってくるはずだ。

IOC(国際オリンピック委員会)やJOC(日本オリンピック委員会)の公式スポンサーでもない同社が、なぜ五輪でこれだけの存在感を示せるのか。超円高下でも国内生産を墨守し、世界のトップアスリート向けに品質の高さをアピールし続けてきたことがその理由の一つといえそうだ。

大滝 俊一 東洋経済 記者

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おおたき しゅんいち / Shunichi Otaki

ここ数年はレジャー、スポーツ、紙パルプ、食品、新興市場銘柄などを担当。長野県長野高校、慶応大学法学部卒業。1987年東洋経済新報社入社。リーマンショック時に『株価四季報』編集長、東日本大震災時に『週刊東洋経済』編集長を務め、新「東洋経済オンライン」発足時は企業記事の編集・配信に従事。2017年4月に総務局へ異動し、四半世紀ぶりに記者・編集者としての仕事から解放された

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