堀ちえみの舌がんが早期発見できなかったワケ 「痛みがなく治らない口内炎」は要注意だ

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彼女のブログによれば、最初に舌の裏側の口内炎に気づいたのは昨年の夏だ。「病院で診ていただきまして、そのときは塗り薬や貼り薬、ビタミン剤などを処方してもらいました」とある。

なぜ、このときに医者は口腔がんを疑い、専門家に紹介しなかったのかと感じる読者もいるかもしれない。

ただ、口内炎はありふれた疾患だが、舌がんは極めて稀な病気だ。舌がんの発症数について、正確な統計は存在しないが、ウィキペディアは、岩手医科大学の研究者の報告を引用し、「2002年の日本における舌がんの死者は1147人」とある。舌がんによる口内炎は、病気が進むまで通常の口内炎とは外見では区別できない。

その後、11月になって堀さんはかかりつけの歯科医を受診する。レーザー治療を受けたようだが、「それでも治らず、そのうちに、舌の裏側だけではなく、左の側面にも、固いしこりができてしまいました」という。この時点で舌の中のほかの場所に転移していたことになる。

実は舌がんは転移しやすいことが知られている。初診時に30~40%が転移を認めるという報告もある。

歯医者はがんの診察をしない

読者の多くは歯科医なら口腔がんについて詳しいとお考えかもしれない。「なぜ、このときに舌がんと診断しなかったのか」と思うのも当然だ。ところが、それも難しい。

歯科医の多くは日常診療でがんを扱わない。2016年の厚労省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、開業している歯科医8万9166人中、口腔がんを扱う口腔外科専門医は909人しかいない。わずか1%。病院勤務医でも9.5%である。大部分の歯科医は学生時代や研修医時代に口腔がんについて学ぶが、その後、診療する機会はない。

さらに、堀さんにとって不幸だったのは、関節リウマチで治療中だったことだ。標準治療薬はメトトレキセート(商品名リウマトレックス)だ。その添付文書によれば、服用者の20.1%に何らかの副作用が生じ、肝機能障害と並んで多いのが口内炎で2.2%の患者に生じていた。この数字は、臨床現場では「よく見かける副作用」と解釈される。

定期検診で受診したリウマチの主治医に相談したところ、「飲んでいる薬の副作用の1つに口内炎の症状がよくあるので薬を暫くストップして様子を見ましょう」と言われたとある。このように考えると、11月に堀さんを診察した歯科医が舌がんを診断できなかったからと言って、その責任をことさらに追及するのも酷な面がある。

では、堀さんや医師は、どこに注目すればよかったのだろうか。それは痛みの有無だ。口腔がんによる口内炎は進行するまで痛みが出ない。そして、なかなか治癒しない。

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