33歳ADHDの男性が働くことを恐れる深刻事情 20代「正社員」の恋人に養ってもらっている

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出身は東北のある地方都市。小学生の頃から、じっとしていることができず、授業中も教室内や廊下を歩き回る子どもだった。いじめには遭わなかったが、教師からは「怒られた記憶しかない」。中学を卒業する頃、親族に借金トラブルがあることがわかり、「だったら、自分も早く働こう」と、高校には進まず、地元の舗装会社に就職したという。

会社では、早朝に事務所を出発し、山奥の現場で、翌朝までぶっ通しで作業をするようなシフトが頻繁にあった。給与は手取りで約10万円。手渡しで、明細もなかったので、何が、いくら天引きされていたのかわからない。雇用形態もわからない、という。

「朝5時に出発して、帰りが翌日の朝10時とか。吹雪の中、スコップで路面のアスファルトをひたすらならし続けるんです。落ちてきたドラム缶に手が挟まって、血をだらだら流しながら作業したこともあります。現場は罵声、怒声の連続で、同僚はよくグーで殴られてました。中卒で何にも知らなくて……。それが普通のこと、働くってことだと思ってました」

4年ほど働いた後、給料未払いの末に社長がとん走。その後は、工場派遣や引っ越し業、医療事務など10数回にわたって転職した。「(工場派遣時代に)体調が悪くなったとき、(責任者から)『医務室は正社員しか使えねーから、帰れ』って言われたんです。人間扱いされてないと思いました」と、ケンジさん。リーマンショックによる雇い止めも経験した。

遠距離恋愛の女性と同棲を始めた

この5年間、就職活動をしたこともあったが、一度も定職には就いていない。では、ケンジさんはどうやって生計を立ててきたのか。

ケンジさんは5年前、遠距離恋愛の女性と同棲を始めた。関東地方で暮らす女性の元にケンジさんが移り住んだのだ。彼女は会社員。彼はいわゆる“専業主夫”になった。

今回、編集部に連絡をくれたのは、その女性チエさん(27歳、仮名)だ。取材の席にはチエさんも同席。女性からの取材依頼は、本連載では、初めてのことだった。

チエさんは都内の私大を卒業後、正社員として働き始めた。年収は約380万円。取材の待ち合わせ場所を相談したとき、彼女は土地勘のない私のために、わかりづらい駅構内を避け、混雑具合や予約の可否まで配慮したうえで、あるチェーンの喫茶店を提案してくれた。

ケンジさんがADHDと診断されたのは、チエさんの勧めで、クリニックを受診したことがきっかけだったという。チエさんは同棲を始めた当時のことを、こう振り返る。

「(ケンジさんが)待ち合わせ場所にたどり着けないことが続きました。近くまで来ているのに、1時間くらい迷った末にやっと到着するんです。忘れ物もひどくて。コンビニで保険証なんかをコピーすると、しょっちゅう原本を機械に置き忘れてきました。あと、普段の会話でも、だんだん話題がズレていって、何の話をしているのかわからなくなっちゃう。私の質問の答えになってないよね、ということもよくあります」

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