ルネサス急ブレーキ、のしかかる1兆円買収 今春1000人リストラ、見えぬシナジー効果

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肝心の成長戦略も、見通しは良好ではない。

「メディアでは柴田(英利CFO)と呉(文精社長)の意見が違うという記事がある。呉は車重視、柴田は車以外強化というが、私も(柴田CFOと)まったく同意見。車を弱めるという意味でなく、ほかのバランスをとることが重要だ」

ルネサスの呉社長は決算発表の電話会見でこう強調した。ルネサスは2017年にアナログ・パワー半導体に強いアメリカのインターシルを約3200億円で買収。続く2018年にはデータセンター向けの製品が強いアメリカのIDTを約7300億円(予定価格)を買収すると発表した。それらは、ルネサスの強みである車載や産業機器向けで成長するというストーリーに合わないという批判があるが、呉社長は真っ向から反論した格好だ。

「車を弱めるわけではない」と強調するルネサスの呉社長(撮影:今井康一)

IDT買収はトランプ政権下の政府閉鎖の影響を受けて手続きに時間がかかっているが、今春にも買収完了の予定。2社合わせると1兆円を超える巨額案件で、総資産が1兆円程度のルネサスにとって、買収額だけを見れば、会社の形が一変するような大きな転換点になる。

1兆円買収に踏み切る結果、ルネサスは多額ののれん代を抱えることになる。シナジー効果について、会社側はコスト削減効果程度しか説明しておらず、明確なビジョンは語られていない。ルネサス製品を扱ってきた半導体商社との間でもインターシルやIDT製品を扱うような動きは乏しい。ルネサスは春以降に公表する中期経営計画で詳細を説明するとしており、その内容が注目される。

モービルアイ、エヌビディアとどう戦う?

一方、8日の決算電話会見で、今後急速な成長が期待される先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の分野について、強気な発言もあった。

「今、一番市場が伸びているのは単眼の前方カメラ。今は(アメリカ・インテル傘下の)モービルアイが強いが、自動車の世界ではどこかのサプライヤーが市場を独占するのは好まない。私たちは対抗のソリューションを提供する」。呉社長はそう語り、ルネサスが得意とする「走る・曲がる・止まる」といった自動車の制御部分のマイコンの分野を超えて、ほかの領域に打って出る意思をアピールした。

自動運転をめぐっては、世界の有力な半導体企業がしのぎを削っている。すでに導入が進んでいるADAS関連では、周囲の状況を把握するカメラシステムでモービルアイが圧倒的な競争力を誇り、画像処理用半導体に強いアメリカのエヌビディアは自動運転用のAI開発を強化。通信用半導体が強いアメリカのクアルコムも車載事業の強化を狙っている。ルネサスは豊富な資本や技術力をもったこれらトップ企業と直接競合することはないとみられてきたが、そうも言ってられないかもしれない。

しかも、研究開発費は「タイトにコントロールする」(柴田CFO)と抑制方針で、今後の競争力に影響が出る可能性がある。今春のリストラの狙いについて、呉社長は「お客様の需要があるところに人員を振っていきたい」と説明する。かつて赤字だった時期とは違い、理想の事業構造を求めて変革を進める「攻めのリストラ」を目指すという意味だとみられるが、そのためには、買収企業を成長にどうつなげるのか。これまで優位だった分野をどう伸ばしていくのか、もう少し明確にする必要がある。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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