巨匠ウディ・アレンと組んだアマゾンの大失敗 我が子に復讐されるアレンの奇妙な監督人生

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だが、彼のフィルムメーカーとしてのキャリアは、思いもかけず打ち切られてしまった。そして、そのなりゆきに誰よりも満足を感じているのは、おそらく彼の実の息子である。

アレンの複雑すぎる親子関係

ジャーナリストのローナン・ファローは、ミア・ファローとアレンの間に生まれた息子で、アレンの性的虐待を告発したディランの弟だ。

アレンの息子でジャーナリストのローナン・ファロー(写真:Jon Kopaloff/FilmMagic)

『カフェ・ソサエティ』がカンヌでプレミアする直前の2016年5月、彼は、海外メディア『The Hollywood Reporter』に、「ハリウッドはなぜ今も性犯罪者である父をちやほやするのか」と非難するエッセイを寄稿した。それは業界内である程度注目されたが、まだ「#MeToo」前のことで、受け流されている。

だが、実は、それはローナンによる警告だった。ローナンは、その頃からハーベイ・ワインスタインのセクハラやレイプについての取材を始めており、2017年10月に『New Yorker』に、暴露記事を掲載するのである。その数日前に出た女性記者2人による「New York Times」と合わさって、ハリウッドにはたちまち「#MeToo」運動が起こり、ローナンと「New York Times」の記者らはピューリッツァー賞を受賞した。

昨年4月、LGBTコミュニティのカレッジ(勇気)賞を受賞した席でも、ローナンは、「世の中にはまだ、権力があるために責任を問われずにいる人がいる。僕の姉が、ウディ・アレンのせいでそれを経験させられている。姉がアレンに責任を求めたのは勇気がいること。僕は彼女を讃える」とコメントしている。

つまりアレンは、娘にしたことの復讐を、息子によって果たされたのである。それも、とても頭が良く、才能を持つ人物でないとできないやり方でだ。それだけでもアレンの映画にありそうな筋書きだが、さらにもう1つひねりがある。ローナンの父親はフランク・シナトラではないかという噂があるのだ。ローナンが生まれる前、ミア・ファローは、シナトラと浮気をしていたのである。

アレンにとって、アイデアは次から次に浮かんでくるものだそうで、紙に書かれたものが常にストックされてあるとのことだ。この一連のドタバタで、またもやすばらしいストーリーのアイデアが浮かんだことだろう。だが、その映画に出資してくれる人は、今のところ、少なくともアメリカには、いない。出演してくれる俳優にしても同じだ。

アレンのレガシーはここで終わるのか、それとも、この後にまだ思わぬ展開があるのか。続きは、ひたすら見守るしかない。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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