自民党大会「谷垣スピーチ」に大喝采のわけ 保守化に突き進む「安倍1強」政権への不安
谷垣氏は昨年秋、厳しいリハビリを経て公の場に姿を見せ、10月31日に官邸で安倍首相と面会。続いて11月6日には二階幹事長らとも会談した。首相や二階氏は谷垣氏の政界復帰を促したが、谷垣氏は「やっぱり老兵は死なず、ただ消えゆくのみということだ」と否定した。ただ、二階氏は「政界復帰を待ち望む国民の声は多い。それに応えてもらいたいという強い願望を持っている」と述べ、加藤勝信総務会長も「十二分にそうした期待に応えていただけるのではないか」と谷垣氏の政界復帰への期待を強調した。
首相や二階氏が視野に入れるのは、夏の参院選での比例代表からの谷垣氏出馬だ。政界でも「もし谷垣氏が比例名簿に名を連ねれば、安倍政治に批判的なリベラル層からも数十万単位で票を取り込め、自民全体の得票数のかさ上げは確実」(選挙アナリスト)との分析があるからだ。
首相が2014年9月に谷垣氏を幹事長に起用した際、側近に「ゴルフのティショットに例えると、私は右、谷垣さんは左に行きがちなので、二人を合わせればフェアウエイのど真ん中だ」と冗談交じりで語ったとされる。「保守色が際立つ安倍政権にとって、谷垣氏は貴重な毒消し役だった」(自民長老)だけに、政権安定と安倍1強維持のために谷垣氏の政界復帰が必要なのだ。
安倍首相の在職日数は戦後2位に
首相が悲願とする憲法改正も、谷垣氏が総裁時代の2012年春に「安倍案」よりさらに踏み込んだ自民党改憲草案を作成、公表している。このため、自民党内では「谷垣氏が政界復帰して、党憲法改正推進本部の最高顧問などに就任すれば、野党との協議もスムーズに進められる」と期待する声もある。
週明けの12日に再開した衆院予算委では、早速、立憲民主党に合流したばかりの岡田克也元外相(元民進党代表)が首相の悪夢発言を取り上げ、「民主主義はお互いに相手を全否定しては成り立たない」などと発言撤回を求めた。これに対し安倍首相は「総裁としての言論の自由はあるはずだ」「国会審議で『安倍政治は許さない』などのプラカードを掲げたのはどこの党だ」などと応戦、冷笑交じりで撤回を拒否した。
巨大与党を背景に1強を堅持し続ける首相は、今月23日には通算在職日数が吉田茂元首相を抜き、戦後単独2位となる。さまざまなスキャンダル発覚にもかかわらず、歴代首相より内閣支持率が高率なのは「決められる政治を実践しているから」(閣僚経験者)との見方が多い。ただ、6日の参院予算委で統計不正に関する報告書を「読んでいない」と答弁して非難されると、「総理なので森羅万象すべてを担当しているのだから」と言い返すなど、「上から目線の安倍語」(自民幹部)が党内外での批判につながっていることも否定できない。
党大会での谷垣スピーチへの大喝采は、「首相を先頭に保守化に突き進む自民党への不安の広がりが背景にある」(首相経験者)との指摘もある。11月下旬には史上最長政権となる首相だが、10日の党大会における安倍首相と谷垣氏への対照的な評価が、「安倍政権の現状を象徴している」(自民長老)との声も広がっている。
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