環境問題でもモラルハザードが蔓延する中国 富坂聰氏が描き出す衝撃の現地レポート(後編)

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2013年4月から5月にかけて、環境保護部華北督査センターが北京を流れる河川の調査を行なっている。対象となったのは50の河川だが、すでに水が枯れている9本の河に加え、サンプリングに適さないと判断された4本は除かれた。結果、37本の河川はすべて環境保護部の定めた水質基準を下回ったというから驚きである。

モラルハザードが蔓延する中国社会においては、問題はすでに中国にとって最後の砦ともいうべき地下水にまで広がりつつあるようなのだ。

頼みの綱の地下水にも汚染の波が

水不足が深刻な北京市では、現在、消費する水資源の約40%を地下水に頼っているのが実態である。4割を依存するとなれば大変なことだが、その地下水にもいまや汚染の波が及び始めているという。

2013年10月、『時代週報』が伝えた記事には、北京の地下水が直面するその問題が詳しく記されている。

同誌によれば、中国農業科学院の研究者が2009年に北京市平原区の322の観測地点で行なった調査で、「比較的汚れている」および「きわめて汚れている」に分類された箇所が41%にも及んだというのだ。

この結果は、北京から少し範囲を広げて行なった調査でも当てはまるようだ。

同じ時期、中国地質科学院水文環境地質環境研究所が公表した華北平原における地下水の汚染状況の調査によれば、いまだ汚染されていない地下水は全体のわずか55.87%でしかなく、44.13%の地下水はすでに何らかの汚染の影響を受けていたことが判明したというのである。

中国では、もう何年も前から「いずれ飲み水がなくなる」という懸念が語られてきているが、公表されるデータのどれもがそのことを裏付けるような内容なのだ。

水の問題は単純に水資源としての視点も重要だが、それだけではない。

水の汚染は土壌の汚染とも直結する問題であり、農作物にも大きな影響が及ぶと考えられている。

食の安全は、ここ10年ほど中国に暮らす人びとにとって切っても切れない関心事となっている。とくに北京オリンピック前後からは大きな事件も頻発し市民を悩ませている。

2013年にも、病死した豚の肉が流通していた問題から成長ホルモン剤漬けの養鶏場の摘発、カドミウム汚染米、さらにもはや定番にもなっている地溝油の問題が再燃した。そして現在はインスタントラーメンのスープに重金属が含まれていた問題が騒がれている。

現在、中国で携帯電話を所持していると、そこにはひっきりなしに広告メールが送られてくるが、そこで不動産、融資、不正経理と並んで頻度の高いのが、いまや安心な農産物の宅配であるのも世相を反映しているということだろう。

『Voice』2014年1月号より)

富坂 聰 ジャーナリスト・拓殖大学教授
とみさか・さとし / Satoshi Tomisaka

中国ウォッチャーとしては現代屈指の一人。1964年愛知県生まれ。北京大学中文科中退。週刊ポスト、週刊文春などで名を馳せたのち、独立。中国の内側に深く食い込んだジャーナリストとして数々のスクープを報道。2014年より、拓殖大学教授。

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