環境問題でもモラルハザードが蔓延する中国 富坂聰氏が描き出す衝撃の現地レポート(後編)

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警官が危篤状態に陥った理由は河の水を飲んだこととされ、診察した医師は「消化器系から呼吸器系に至る問題で、一時は死に至る可能性もあった」と公表。病名に困ったのか、「汚水游泳後遺症」という信じ難い病名が告げられて人びとの失笑を買ったのである。

地元の温州では、同様のドブ河が市内だけで680本もあるとされ、以前から水質汚染が問題になっていたために市民の怒りが爆発し、ネットのなかでは、「環境保護総局長をそのドブ河に投げ込んでしまえ!」という過激な書き込みがあふれたというのだ。

水質汚濁に加えて、そもそも水が足りない

中国では毎年約500億立方メートルの水が不足している(中国水利部が2013年3月に発表した統計による)という。

また前述のように世界平均の3分の1しかない水が北部ではさらに逼迫しているのだが、その北部地域において重要な水源である4本の川(黄河、淮河、海河、遼河)の水資源は、この数年で約17%も失われてしまったという状況なのだ。

簡単にいえば、もともと水資源が乏しい河をさらに生活用水や工業用水、工場からの排水によって汚しているというのが中国の水問題なのだ。

水不足に頭を痛めた中国は、かつてロシアとのあいだで水の提供をめぐる協議を行なったこともあるが、やはりエネルギー同様に国家の安全保障に深く関わるとの意味からも断念した経緯がある。

その後中国は、比較的水資源に恵まれた南の長江の水を北に運ぶ大事業「南水北調」によって急場をしのいでいるが、それが根本的解決になっていないことは誰の目にも明らかだろう。

問題は、そうまでして運んだ水をゴルフ場の乱立というかたちで消費していることなのだ。そしてもう一つの問題がいうまでもなく汚染である。

前述のような「お腹がすいているのに環境どころではない」といった感覚があるなか、一部の企業のあいだでは“盗排”という現象まで広がっている。盗排は言葉のとおり汚染水をこっそり捨てることだが、企業自ら汚染水を捨てるのではなく、それを有料で引き取る非合法の企業が仲介し、その非合法の企業が夜中にこっそり河に捨てるというシステムだ。そのため自らの手を汚さないことでさらに良心のハードルが下がり、問題を助長していると考えられている。

地表を流れる河川がどのような状況にあるのか、北京を例に見てみることにしよう。

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