日本人は「海の不健康」の深刻さをわかってない ごみ、酸性化、貧酸素化…問題は山積みだ

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海は、人間をはじめ地球上の生物が生きて行くうえで、大きな役割を果たしている。海の中の植物プランクトンは二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す光合成を行っている。その量は、森など陸域の植物とほぼ同じ。つまり、地球を取り巻く大気中の酸素の半分は、海洋が供給していることになる。

国連の生物多様性条約事務局が2014年にまとめた報告書と、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が昨年公表した特別報告書は、海洋酸性化について詳述した。それによると、海洋は、化石燃料の使用や森林を農地に転換するなどの人間活動により大気中に排出された二酸化炭素(CO2)の少なくとも約30%を吸収する。大気中のCO2濃度が増加した結果、産業革命以前に比べ、海水の水素イオン濃度を示す指標であるpHは「0.1」単位減り、酸性化した。これは、過去5500万年の自然の変動の10倍の速度である。

海が酸化すると、海水中の炭酸イオンが減り、サンゴや貝など多様な生き物の骨格の原料である炭酸カルシウムを形成しにくい状態になって、こうした海洋生物は殻が作りにくくなる。今までは、海水にカルシウムイオンと炭酸イオンが十二分に存在し、固体の炭酸カルシウムを作りやすい状態だったが、それが変わってしまうからだ。

これらのことは従来からわかっていた。しかし、JAMSTECの特任参事兼国際海洋環境情報センター長、白山義久博士は「事態の深刻さが広く認識されるようになったのは、最近のこと」と話す。どういうことなのか。

「まず波及効果の大きさ。例えば、北極海では、翼足類という貝の仲間の殻が海の酸性化で溶けてしまうことが観測されている。それをエサとするサケなど北の魚類への影響は大きい。もう1つ、酸性化した海水の中では、例えば魚類の精子の運動量が減るなどの影響が明らかになってきた。タラなど外洋性の魚ほど、受精率が下がるなどの影響が出る可能性がある。生態系全体への影響が懸念されている」(白山博士)

解決のカギは、海の汚染防止

海洋酸性化とともに問題視されているのが、貧酸素化だ。1990年代以降、酸素レベルが低すぎて、海の中の生物が生きていけない「デッド・ゾーン」の出現が世界各地で見られ、海水温の上昇と海の酸性化に伴い、発生頻度が上がっている。

しかし、それだけではない。農業で農薬を不適切に使えば、余分なチッソ肥料などが川を伝って海に流れ出す。工場排水も、処理が不適切なまま川や海に出されれば、汚染が広がる。ごみも収集・運搬・処理が適切に行われなければ、結局は有害な成分とともに海に流出する。沿岸域の富栄養化は、こうした陸上からの汚染物質の流出が原因となる。

海が富栄養化すると、海中の有機物が多くなる。有機物は酸素を使って分解され、CO2と水になる。海水中に溶け込むCO2が増えると海水は酸性化する。また、有機物の分解で酸素が失われるので、貧酸素化する。陸域からの海洋汚染を止めることが、海洋の酸性化にとっても、貧酸素化に対しても、有効な対策となる。

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