日本人は「海の不健康」の深刻さをわかってない ごみ、酸性化、貧酸素化…問題は山積みだ

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大気中のCO2が増えていることだけが海洋環境を悪化させているわけではなく、まずは海の汚染防止が重要という点は、先に挙げたIPCCの特別報告書などでも強調されている。また、国連の持続可能な開発目標の目標14「海洋および海洋資源の保護と持続可能な利用」の小目標1には、「特に海ごみと(チッソやリンなどの)栄養素による汚染などあらゆる海の汚染を2025年までに防止し、著しく減らす」と掲げられている。

プラスチックごみに関していえば、「海に出さない」だけでなく、今後は「海からの回収」も重要だ。

環境省による漂着ごみ、海底ごみ、漂流ゴミの調査(個数ベース)のいずれでもプラスチック類が大半を占める。中でも目立つのは、網やかごなどの漁具と容器包装に使われるプラスチック。回収は、海岸への漂着ごみを中心に国の支援で自治体が行ってきた。環境省は、2015年度からは漂流ごみや海底ゴミにまで補助金の対象を広げたという。

日本の沿岸海域から引き揚げられた漁具。北海道南西部の噴火湾で(写真提供:環境省)

海底のごみ調査は、漁業者に底引き網などにかかったものを回収してもらう方法で行われている。しかし、漁業者に協力を求めて海底や漂流しているごみを積極的に回収するにはまだ至っていない。漁網を含むプラスチック類は、海洋汚染防止法により、海に捨ててはいけないことになっており、罰則もある。しかし、使っている最中に切れたり、設置していた網が船の航行により切られたりするケースもある。

国際的には、1990年代から「ゴースト・フィッシング」と呼ばれ、「流出した漁網がいつまでも魚を取り続ける」と問題視された。国連の国際海事機関(IMO)の海洋保護委員会は昨年10月、海洋プラスチック問題をめぐる行動計画を採択した。今後、漁船による漁網の取り扱いや海に流出した場合の報告など流出防止策の検討が始まる。

G20参加国の科学者による声明

G20の開催に伴い、「サイエンス20(S20)」という名前の科学者による会合が2年前から開かれている。1回目は、2017年3月にドイツ、2回目は昨年7月にアルゼンチン、といずれもG20の開催地でG20に先立って開かれた。G20を構成する国・機関それぞれの学術団体傘下の科学者が集まって議論し、政策提言を行ってきた。

日本学術会議は3回目のS20を3月6日に東京・港区の日本学術会議講堂で開く予定で、海洋の環境問題をテーマにしたシンポジウムを行い、声明をまとめる。

海洋の環境問題は、持続可能な開発目標の「目標14」に掲げられ、その後、目標達成のために、海中プラスチックごみ量などの指標を設けることも決まった。具体的な指標づくりなどの検討が始まっている。科学的に未解明なことも多いことから、国連は2017年12月に2021-30年を「持続可能な開発のための海洋科学の10年」と定めている。

S20の声明は、下水道の整備や農薬の適正使用などを含め、沿岸域の海の汚染防止や海洋プラスチックごみの削減が必要と強調し、廃棄物も資源として使っていく循環型社会づくりの重要性を訴える内容となりそうだ。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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