損保の信用力と動向、見通しはネガティブ 《ムーディーズの業界分析》

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金融機関グループ
AVP−アナリスト 三輪昌彦

 日本の損害保険業界の見通しはネガティブと考える。これは主として、自動車保険をはじめとした国内損害保険事業における成長機会が限定的であるとの、ムーディーズの見解を反映したものである。

 ムーディーズは、国内大手損害保険会社の事業ポートフォリオの多くを占める自動車保険事業において、事業成長機会が限定的であると考える。日本国内の人口が頭打ちする中、自動車保有台数が増加し続ける状況は想定しにくく、実際、2008年3月期には、国内自動車保有台数が年度ベースで戦後初の減少に転じているとみられる。保険料率の改定による収益改善は一定程度可能であるが、契約台数が長期に亘って縮小する状況となった場合、利益成長は困難といえる。このような国内事業環境を受け、収益性向上に向けての選択肢の一つとして海外事業展開の積極化があり、海外保険事業の買収が活発になっているが、依然として国内エクスポジャーは高いといえる。

 また、国内大手損害保険会社の支払備金に関して、例えば自動車保険の中でも比較的ロングテイルになりやすい対人賠償保険等において、比較的大きな見積り誤差が生じているものと考える。各期の損益は、その期の損害だけでなく、それ以前に発生した損害の見積り修正により影響を受ける。支払備金の見積りが甘い場合、過年度における損害見積り額の上方修正が発生しやすい。したがって、2008年3月期において比較的高水準であった各社の支払備金修正率が、一過性のものであるのかどうか、今後も注視していく必要があると考える。

 直近では、国内株式市場の大幅な下落、海外の市場・経済環境が変化する中で、国内大手の損害保険会社である損保ジャパンが、2009年3月期の下期において金融保証保険業務に関連して700億円程度の支払備金追加計上、有価証券投資における評価損計上等を見込んでおり、通期で570億円の純損失に転じるとの見込みを発表している。ムーディーズでは、足元の不透明な市場・経済環境から、2009年3月期における損失額が見込みよりも拡大する懸念、2010年3月期においても引き続き損失が発生する懸念もあるため、2008年12月3日付で損保ジャパンの格付け見通しを安定的からネガティブに変更している。海外の市場・経済環境が変化する中で、ABS-CDO(2008年9月末時点の保証残高:約2,500億円)、海外ABS・RMBS(2008年9月末時点の保証残高:約700億円)における支払備金の追加計上があるのかどうか、状況を注視している。

図表1:日本の損害保険会社
  保険財務格付け 見通し
東京海上日動 Aa2 安定的
損保ジャパン Aa3 ネガティブ
三井住友 Aa3 安定的
あいおい A1 安定的
ジェイアイ傷害 A1 安定的
2008年12月17日時点

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