テレビアニメ制作と「中央線」の深すぎる関係 「荻窪」を中心に業界に変化が起きている

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調べてみると、荻窪駅の徒歩10分圏内に限っただけでも、元請けの制作会社が10社前後も集まっているのである。

その中にはトリガー(「SSSS.GRIDMAN」)、ライデンフィルム(「はねバド!」)、MAPPA(「BANANA FISH」)、WHITE FOX(「シュタインズ・ゲート ゼロ」)といった2018年の話題作を送り出した制作会社が含まれている。つまり、荻窪は今のアニメ業界を支える“心臓部”の1つといっていい地域だ。

今回取材に訪れたエイトビットも、入居しているビルは、駅から徒歩2分ほどの立地。同社は現在放送中の異世界ファンタジー「転生したらスライムだった件」を制作中で、今年は、アニメオリジナル企画の「星合の空」の放送も控えている。

テレビアニメは夕方から「深夜」へ

日本動画協会が年1回まとめている報告書「アニメ産業レポート2018」によると、2017年に放送されたテレビアニメは340作品。単純計算しても、1週間に60作品近くが放送されていることになる。また分数ベースで見ると2017年には、「深夜アニメ」が全体の53.8パーセントと過半数を占めている。

テレビアニメというと、午後5時ごろから7時台にかけて、再放送なども含めて放送しているもの、というイメージを持っている読者も多いかもしれない。だが、そういう「テレビアニメ」のあり方は、ここ20年ほどの間に過去のものとなってしまっているのである。

アニメーターが原画の作業をしている様子。専用の用紙に鉛筆で描いている(写真:尾田信介)

かつてはスポンサーの広告費の中で制作されていたアニメだが、今は関連企業が製作委員会を組み、出資分はDVDやBlu-rayの販売などで回収するという仕組みが主流になっている。だから現在の作品数の多さは、「流行している/人気がある」という以上に「作品数が多いとリスクヘッジがしやすい」というビジネス上の理由が大きいのである。このような現在の深夜アニメの時代が始まったのは、1990年代末のことだ。

信用調査機関の帝国データバンクは、2018年に「アニメ制作企業の経営実態調査」を発表しており、そこでは同社の企業概要データベース「COSMOS2」に登録された企業の中から、「アニメ制作を受注する企業(いわゆる元請け)」と「各専門分野を元請けから受注する企業(下請け)」の255社がリストアップされている。このうち150社が2000年以降の設立という。ここから深夜アニメの増加の中で制作会社が増えているという状況がうかがえる。

それにしても、どうして荻窪が選ばれるのか。江口・小菅両プロデューサーの話をまとめると、どうやら2つの「便利」が大きく影響しているようだ。

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