テレビアニメ制作と「中央線」の深すぎる関係 「荻窪」を中心に業界に変化が起きている
1つ目の「便利」は、なんといっても交通の便のよさ。
「社長の葛西に、どうして荻窪を選んだのかを聞いたのですが、交通アクセスのよさが決め手だったと言ってました。中央線・総武線・地下鉄丸ノ内線が走っていて、かつバスの路線も多い。自分の体験を振り返ってみても、阿佐ヶ谷の制作会社で働いていたときは、土日にJRが止まらないので結構苦労しました(笑)。快速、通勤快速が止まる荻窪は確かに便利ですね」(江口)
「東京の鉄道網は南北の動線が限られているんですよね。そんな中で荻窪は南北をつなぐバス路線がたくさんあるんです。フリーランスのクリエイターさんは、家賃が手頃な西武線方面に住んでいる方も多いのですが、バス1本で出られる荻窪は、打ち合わせに出向くにしてもとても便利だという話を聞くことがあります」(小菅)
そしてもう1つの「便利」は、ビデオ編集スタジオの存在。
ビデオ編集とは、完成した映像にテロップなどを加えたり、テレビ局に納品するフォーマットに整えるアニメ制作の最終工程。スケジュールの如何では、未完成部分の映像をビデオ編集時に滑り込みで挿し入れたり、編集中に見つかったミスに修正を施すことも少なくない。テレビアニメ制作における編集を手がける会社が、相次いで荻窪やその近辺にスタジオを構えたんです。
それまでは都心のスタジオに出かけていたことを考えると、これはかなり便利になりました。今では、逆にそれを理由に、荻窪にスタジオを構えた会社もあるのではないかと思います」(小菅)
安定的な作品作りを実現するためにできること
社内の若手アニメーターを対象に、レイアウトの描き方、原画の描き方から始まり、絵コンテの読解の方法などを指導しているという。このほかにも、所属部署や役職を問わず参加できる勉強会も多く、社内のデジタル演出課主導で実際にカメラを持って構図の勉強をしたり、キャリアのある監督による絵コンテ講座なども開かれているという。
「勉強会が必要なのは、アニメ業界全体において、クリエイターの世代交代の時期がきているという側面もあると思います。今40代以上の、1990年代から海外に通用するものを作ってきた世代のスタッフがだんだん歳を重ねてきている半面、それより下の世代には、そういう目立った人が減っているという実感があります。でもそういう能力を持った人は必ずいるはずで、これからも国内外に通用するいいものを作り続けていくためには、育成ということをしっかり考える必要があると考えています」(小菅)
社内では、この勉強会を社内だけでなく、広く他社のスタッフやフリーランスの人も招いてやったらどうだろうか、という話も出ているという。
「1つは、荻窪にこれだけの制作会社が集まっているんですけれど、あまり横のつながりがあるわけではない、ということがあります。うちの勉強会は、社外の人にも興味を持ってもらえる内容だと思うし、フリーランスの人であれば『エイトビットと接点があると勉強の機会があっていいよね』というふうに利用してもらっていいわけで。そんなふうに、ある種の交流の場として勉強会を広げていければいいね、という話は出ています」(江口)
創業10周年を超えて、エイトビットはこれからどんな会社をになっていくのだろうか。
「これまでの10年は、特定のジャンルに固執することなく、クライアントの提案とその企画をやれるスタッフ・環境があるかどうかをすり合わせながら作品を制作してきました。これからは、だんだんと会社のカラーが出来上がっていく時期に入るのではないかと思います」(小菅)
アニメ業界は今、大きな転換期を迎えている。深夜アニメの隆盛とスタッフ不足。DVD・Blu-rayの販売中心から配信中心へというビジネス環境の変化。そしてこれまで後手に回りがちだった、労働環境改革の機運の高まり。「どうして荻窪にアニメ制作会社が集まっているの?」という疑問に端を発して取材をはじめたが、そういう大きなアニメ業界の変動が、「荻窪への集中」という現象の向こう側に、直接的であれ間接的であれ見え隠れしているのだった。
(東京人3月号の記事より一部抜粋)
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