「自動車」全滅! ニッポン大恐慌の現実シナリオ


 ある証券アナリストは「来期のトヨタは為替と台数の組み合わせによって増益にも横ばいにも赤字にもなりうる」と言う。「1ドル=100円、1ユーロ=135円で全米市場規模が1300万台なら営業利益9000億円と辛うじて増益。ただ、これらの条件が悪化した途端、減益に転じる」。別のアナリストは「今のトヨタは販売が1台減るごとに約67万円の営業利益を失う」と指摘する。来期の販売が今期予想比50万台減れば、3300億円の減益要因になる。これに車種構成比や販売金融の悪化が加わる。さらにトヨタは為替変動の影響も大きい。1円円高で、対ドルで通期400億円、対ユーロで60億円の営業利益が吹っ飛ぶ。現在の円高が続けば6000億円のマイナス要因となる。合計の減益額は1兆円(今期営業利益予想6000億円)。原価低減で毎期3000億円をひねり出す力をもってしても、来期の赤字は決して絵空事ではない。

トヨタは有史以来2回しか赤字を出していない。1度目は創業直後の1938年3月期。2度目は創業者・豊田喜一郎氏が失脚した50年3月期に税引き前損益で7652万円の赤字を出した。仮に赤字となれば、まさに半世紀ぶりの“大事件”だ。

設備投資や雇用の急収縮 日本“大恐慌”のリスク

人件費を減らす以外に赤字回避の道はない。毎期50万台を増販し、つい春先まで世界中で人手が足りないと嘆いていたトヨタも、とうとう人員削減に着手し始めている。

前期末時点では全世界連結ベースで従業員31万6000人、ほかに臨時雇用の人員が8万8000人いたトヨタ。国内では、今年3月末に国内工場で8800人いた期間従業員を9月末には6800人に、09年3月末には3000人にまで減らす計画だ。新規採用も6月末から行っておらず、この1年間でざっと3分の2がトヨタを去ったことになる。

終身雇用が信条のトヨタ。今のところ正社員には手をつけていないが、期初計画に比べ95・3万台減産する国内外の生産は今後、一段と悪化するおそれが強い。ある米国シンクタンクは「トヨタは米国で今、レイオフと工場間の労働者移転を真剣に検討している」とリポートした。が、こうも言う。「ただ、労働者を移転するにも工場間が離れすぎている」。

トヨタ以外の自動車大手も合わせた国内人員削減は、年内に1・5万人近くに達するとみられる。しかし自動車産業の裾野はもっと広い。部品メーカーやディーラー、整備工場など関連業種の就労人口は約500万人(全産業の8%)。さらに設備投資や部品調達を通じて産業機械や金型・鋳物、素材産業にも多大な影響を与える。この11月、工作機械業界の受注額は、自動車の設備投資急減を背景に6割減へと崩落した。

怖いのは、自動車メーカーより先に部品会社が倒れるというシナリオだ。自動車メーカーを頂点に、1次下請け、2次下請けというヒエラルキーにおいては、トップの蹉跌(さてつ)は下請けに即、影響し、さらに企業体力で劣る下請けにとって影響はより深刻だ。

部品会社倒産時代がいつ到来してもおかしくないが、まずいことに、自動車部品はメーカー間の代替性が低く、部品がなくて車が造れない事態もおこりうる。2005年にGM傘下の部品会社デルファイが連邦破産法11条を申請したときも心配された“悪夢”の再現を防ぐためには、トヨタは積み上げたトヨタマネーを下請けに注入し、ベイルアウトしなければならないかもしれない。米政府がGMを救済するように--。

市場が速やかに回復するなら、ベイルアウトはやる価値がある。ただし長期化すれば、底なし沼が待ちうける。自動車業界と日本経済は、絶望的な未体験領域に突入した。


(週刊東洋経済)
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