日立、原発プロジェクト凍結は大英断なのか 国内原発メーカー3社の再編・統合へ鳴る号砲

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すでに東芝は海外での原発新設から撤退。三菱重工業はトルコ計画の撤退をまだ正式決定していないが、進めることは不可能な状況だ。ホライズンも凍結となったことで日本企業による原発輸出はとん挫した。メーカー3社とも将来展望が描けなくなったことで、原子力事業の再編・統合が本格的に動き出すことになりそうだ。

国内で原発新設が見込めない中、日立や東芝、三菱重工とも計画・設計・製造・建設の経験を持つ人材が次々と引退していく。3社は原発の海外輸出に力を入れる大きな理由として「原子力技術の維持」を挙げてきた。

東原社長も「国内は再稼働と廃炉で作業量はものすごくある。が、原発建設、計画して設計して進める人材は不足する。ホライズンで人材不足をブレークスルーするはずだったが、凍結で人材の問題が再浮上する」と説明。業界の再編・統合についても「そういう話があれば一緒に議論させていただきたい」と改めて強調した。

総論賛成でも、進まぬ提携協議

もっとも、国内原子力事業の再編・統合の必要性はこの10年以上、いくつかの動きもあった。再編の必要性はメーカーだけでなく、東京電力ホールディングスも2017年5月に公表した新々・総合特別事業計画(新々総特)の中で、原子力事業について「メーカーや他の原子力事業者等の知見も活用しつつ、(中略)他事業者と協働で取り組むことが考えられる」「協議を重ね、2020年度頃を目途に協力の基本的枠組みを整えていく」と指摘している。

2018年夏には東電、中部電力、日立、東芝の4社が提携協議を開始している。ただ、この協議も話し合いの域を出ていない。過去もそうだが、原子力事業の再編は「総論賛成・各論反対」の典型でまとまらない。

たとえば、メーカーだけで見ても、沸騰水型原子炉(BWR)の東芝、日立と、加圧水型原子炉(PWR)の三菱重工では置かれている状況が異なる。BWRの2社だけ比べても社風が違うほか、原子力では格上の東芝、業績は日立が上という難しさがある。

ただ、ホライズン凍結により、新たな統合機運は間違いなく高まる。依然として反対の理由は山のように残るが、海外案件の有無という大きな障害はなくなる。BWRとPWRの統合は無理としても、BWR陣営、少なくともメーカー2社の統合への流れは強まっていくはずだ。

将来振り返ると、ホライズン凍結が原子力の再編・統合のスタートだったということになるかもしれない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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