「ドローン」が切り開く、新しい観光サービス 高齢者や障害者も楽しめるバーチャルツアー

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ドローンで撮影した鎌倉市街地と由比ヶ浜(写真:シアン提供)

岩井さんは、2018年1月にシアンを設立し、ドローンツアーの実証試験を開始した。当初想定したビジネスモデルは、ドローンの映像で空の旅を楽しんでもらいながら、観光ガイドのアナウンスを行い、さらに空撮写真を撮り放題にするというものだった。というのも、前年のリサーチの過程で「ドローンの空撮は金額が高すぎる」という声を何度も聞いていたのだ。「通常、空撮を業者に依頼すると、安くても数万円必要」(岩井さん)であり、旅の思い出づくりに気軽に空撮を依頼できる金額ではない。ツアーに組み込み、空撮の値段を安くすれば需要があるとにらんだのだ。

最初の実証ツアーは、都心からも近い人気観光地である鎌倉で行うことにした。ツアー実施にはドローンの離発着と参加者の集合に必要な広い場所が必要だが、鎌倉の友人の紹介で、材木座海岸から近い、浄土宗大本山の光明寺に場所を貸してもらえるよう頼みに行った。

光明寺はかつて「鎌倉アカデミア」という市民大学が開校された歴史があるなど、新しいことに挑戦する進取の気風のある寺院だ。また、池の水を抜くテレビ番組の撮影で、境内でドローンを飛ばした実績があったこともあり、企画を理解してもらい、受け入れてもらうことができた。

鎌倉のドローンと横浜の施設をつないだ

そして、このツアーの実施後に、岩井さんにとって大きなターニングポイントが訪れる。ドローンツアーの話を聞いた岩井さんの友人のAさんが、ある依頼をしてきたのだ。Aさんの祖父である三郎おじいちゃん(仮名)は脳梗塞で倒れた後、身体が不自由になり、横浜の施設に入所していたが、

「三郎おじいちゃんは若い頃、鎌倉に住んでいた。もう、食事をすることもしゃべることもできないほど弱っているが、元気なときに鎌倉の写真を見せるといつも笑顔を見せていた。せめて、鎌倉くらい連れていってあげればよかった。病床から、鎌倉の映像を見せてあげられないだろうか」と言うのだ。

このとき、岩井さんの頭に閃いたのが、ネット経由でドローンの映像をリアルタイムで三郎おじいちゃんに見せられるのではないかというものだった。無線でネットにつなぐことさえできれば技術的には問題ないはずだ。

そこで、すぐに三郎おじいちゃんが入所している施設の許可を取り、鎌倉のドローンと横浜の施設をつなぐ「バーチャル鎌倉ツアー」を実行した。VRゴーグルを装着した三郎おじいちゃんの様子は、鎌倉でドローンを操縦する岩井さんも、スタッフ間の連絡用パソコンの画面で確認することができた。鎌倉の空を飛ぶドローンから送られてくる映像を見た三郎おじいちゃんは、笑みを浮かべていた。

岩井さんは、このときまではビジネスモデルとして、現地に集まったツアー客に映像を見てもらうことしか想定していなかった。しかし、三郎おじいちゃんのおかげで、高齢や障害が理由で外に出かけられない人たちも含め、誰でもどこでもリアルタイムで観光を楽しんでもらえるという、バーチャルツアーの大きな可能性に気づくことができた。

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