乃が美で「年越し“生"食パン」が売れるワケ おいしさを追求するだけでは足りない

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「乃が美」の食パンが年末に売れる理由とは……(撮影:尾形文繁)
大阪発の高級「生」食パン専門店「乃が美」。2017年に続き、「Yahoo! 検索大賞2018 食品部門賞」を受賞し、注目を集めている。
「乃が美」はその独特の食感のほか、「1日5万本売るパン屋が一等地出店しない理由」という独特の戦略などもあって成功しているが、ただおいしいパンを焼いて路地裏の店舗でお客様を待っているだけではない。顧客に喜んでもらうための仕掛けにも非常に熱心なのである。
年末年始に売る「年越し『生』食パン」はその代表例だろう。「乃が美」代表の阪上雄司氏が語るその戦略とは。
※本稿は、阪上雄司『奇跡のパン 日本中で行列ができる「乃が美」を生んだ「超・逆転思考」』(KADOKAWA)を再編集したものです。

 

お正月には家族で「生」食パン、を目指して

あまり知られていないかもしれないが、冬は1年でいちばん、パンの売り上げが増える季節だ。なぜかと言われると、これだという理由は定かではないが、冬にいちばんパンが売れるなら、このタイミングで何かお客様に楽しんでいただけるようなイベントができないかと考えてきた。

そこで店をオープンして2度目の年末から、「年越し『生』食パン」という企画を始めた。普通、年越しといえばソバだ。そしてお正月はおせち。僕はかつてダイエーで働いていたが、その瀬には何百件ものソバやおせちの予約を受け付けた。あれと同じ要領で、日本に新たな「暮れの食文化」を根付かせられないか、と考えたのだ。

年越し『生』食パン(写真:乃が美提供)

「おせちもいいけどカレーもね!」というククレカレーのCMの決めゼリフを、昭和生まれの方ならご存じだろう。おせち続きの中、日常の食べ物を欲する人の心に訴えた、秀逸なキャッチフレーズだ。

その「日常の食べ物」に、「乃が美」のパンも該当する。店が休みになる三が日はきっと、パンが恋しくなる人がたくさんいるはずだ。自宅用に買いためたり、新年の帰省や親戚の集まりに持参したり、あれこれ考えるとかなりの潜在ニーズがありそうに思えた。

そこで、12月に入ると同時に、29~31日までの3日間分の予約を受け付けることにした。「乃が美」のロゴとなっている文字を書いてくださった書家の先生にまたお願いして、「年越し高級『生』食パン受付中」の文字を大書きしてもらい、店のウィンドーに貼り出したのだ。

「年越し『生』食パンって、何これ?」

初年は、怪訝そうな顔のお客様が続出した。「うちのパンはおせちと一緒で、年越し用に予約していただかないと無くなってしまうんですよ。和食が続く年末年始、乃が美の『生』食パンはどうですか?」。

次ページ「1日目、2日目、3日目のパンを食べ比べてみ」
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