日本の大学の医学部教育は何が問題なのか? 医療介護の一体改革に立ちはだかる大きな壁

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先日、日本病院会というところで、医師需給分科会における偏在対策の議論の説明をする機会があった。そのとき、「慶應大学の医学部も、日吉にいる間は文科省、そして医学部がある信濃町に移ったらそこでのカリキュラムは厚労省が関わっていくという方向を考えてみたいものです」と話してきた。

それは、2013年の社会保障制度改革国民会議で描かれた医療改革のビジョンの実現が、医学部のガバナンス問題が障害となって、なかなか厳しい局面に来ているようにもみえるからである。本当のところ、こういう問題は当事者たちには変えることは無理で、政治による解決こそが求められているようにも思えるのだが。

医療教育の現場で起きていること

より具体的には医学教育の現場では、どういうことが起こっているのかを端的に示すために、聖路加国際大学の学長である福井次矢先生が医師需給分科会でなされた発言を紹介しておこう。

内面的なインセンティブというか、地域医療をやりたいという心持ちに医学生がなるよう、そもそも医学教育がそういう方向で行われていないというのが実情です。(中略)私はかつて17年間総合診療をやっていましたが、ある大学で入学時には医学生の50%がプライマリケアを将来やりたいと答えていたのですけれども、卒業時には2、3人になりました。
それはなぜかと言うと、私も経験がありますけれども、総合診療部なんか入るなと、そういうメッセージをいろいろな臓器別専門診療科の先生方は学生に言い続けるわけです。
したがって、ジェネラルをやる、全身的に診るという理想に反して、高度な医療機器も使えない、そういう診療をやるのはレベルが低いというメッセージを6年間ずっと伝え続けられますので、心の底から地域医療をやりたいと思う人は、よほど芯の強い人だと思います。ちょっとした外形的なインセンティブでは行動変容は起こらないのが実情だと思います。

 

学生が6年間で地域医療に興味を持たなくなる理由の最大のものは、臓器別専門の教授が非常に多くて、その先生方のネガティブキャンペーンです。

 今、この国の医療がどのような改革の途中にあるのかについては、「日本の医療は高齢社会向きでないという事実――『提供体制の改革』を知っていますか? 」(2018年4月21日)や、「喫緊の課題、「医療介護の一体改革」とは――忍びよる「ポピュリズム医療政策」を見分ける」(『中央公論』2019年1月号)を参照されたい。
 

権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授

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けんじょう よしかず / Yoshikazu Kenjoh

1962年生まれ。2002年から現職。社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。著書に『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障 増補版』、『ちょっと気になる医療と介護 増補版』など。

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