1990年代に4年間、ベストセラーリストに名を連ねた、アメリカのジョージタウン大学のデボラ・タネン教授の著作『You just don’t understand』(邦題:『わかりあえない理由』)によれば、「女性はラポール(共感)トーク、つまり、社会的所属と感情的つながりを重視するコミュニケーションスタイル、一方の男性はレポート(報告)トーク、つまり、感情を交えることなく、情報を交換することに主眼が置かれている」という。
女性がただ共感してもらいたくて悩みを相談しているだけなのに、問題解決をコミュニケーションの目的としている男性は、つい、「答え」を示そうとして、女性から反感を買うというのはよく聞く話だ。
コミュニケーション自体が目的である女性と、コミュニケーションは何らかの目的を達成するための手段であると考える男性という違いもある。喫茶店やちょっと高級なレストランのランチタイムに人を観察すると面白い。
そもそも、男性同士が圧倒的に少なく、いるとしても大体、仕事の話をしている場合がほとんど。延々と向き合って「おしゃべり」しているのは大体、女性だ。「喋(しゃべ)る」とは口数多く話すことを意味し、口へんに木の葉の象形文字がくっついたこの漢字は、葉っぱのように薄っぺらい話を延々と話す、ということに由来するらしい。
もう1つの特徴として、女性は延々と向かい合って話を続けられるが、男性は相手との間に何か介在するものが必要な場合が多い。女性がお互いの目を見ながら、向き合うface to faceのコミュニケーションであるのに対し、男性はテレビでスポーツを見たり、ゲームを一緒にするといったように、互いに肩を並べて、shoulder to shoulderのコミュニケーションをとると言われる。
なぜ「孤独」になっていく男性が多いのか
イギリス・オックスフォード大学のロビン・ダンバー教授は、高校から大学に進んだ学生を追跡調査し、「女性は、電話で話すことなどを通じて長距離の友情関係を維持することができるが、男性は一緒に何かをすることがなければ、関係を継続することが難しい」と結論づけた。ダンバー教授の言葉を借りれば、「(男性の友人関係は)去る者は日日に疎し」。つながりを作り、維持するためのハードルが極めて高く、30代以降、友人を作るのが難しいと感じる男性は少なくない。
アメリカの心理学者トーマス・ジョイナーは著書『Lonely at the top』(頂上で孤独)で、男性がなぜ年を経るにつれ孤独になっていくのかを詳細に分析しているが、その中で「男性の甘え」について言及している。男性は成功と権力を追求する過程で、友人や家族を当たり前の存在とみなす傾向があるとし、女性に比べ関係性を構築する努力を怠っている、と指摘する。
男の子同士の交流は、例えば、スポーツや興味がある「モノ」を通じて成立しているため、それほど「人」に対する気遣いをする必要がなく、関係維持に対してもそれほどの熱意を注ぐことがない。一方、女性は小さい頃から複雑な人間関係を読み解き、お互いの表情や感情を気遣いながら、「共感関係」を構築し、維持する訓練をされ、努力をしている。結果的に、男女の間で対人関係の構築力に大きな差ができる、というのだ。
ニューヨーク大学のウェイ教授(心理学)は、少年期から青年期にかけてのアメリカ人を追跡調査し、思春期にその友人関係が大きく変質することを突き止めた。
幼少期から少年時代にかけては、女の子と同様に同性の友人たちと深く緊密な関係を築いていたのに、青年になるにつれて、そうした結びつきをあえて遠ざけるようになってくる。心の奥底では近しい関係性を継続したいと思っているが、「男同士で群れることは男らしくない、ホモセクシュアル的である」という社会通念や価値観に押しつぶされてしまう、とウェイ氏は分析している。
こうした、コミュニケーションのジェンダーギャップの事例は山とあるわけだが、あくまでも違いであって、優劣とはいいがたい。さまざまな社会的制約、因習、固定観念がその違いを助長するのであって、男女ともにその制約条件を取り払うことで、コミュ力は大いに改善されるということでもある。せっかくなので、「健康総合大学」を名乗る順天堂大学として、医学的・科学的見地からのコミュニケーション研究の殿堂となり、日本人のコミュ力向上に寄与していただくという汚名返上策はいかがだろうか。
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