巨大組織を破滅に導く「ほんのささいな」忖度 上司に「鼻毛、出てますよ」と言えますか?

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複雑ゆえに不正は隠され、薄っすらと気づいたとしても複雑ゆえに不正だと確信が持てない。こうした腐敗の内情をあらわにしたものに小笠原啓『東芝 粉飾の原点』がある。これは東芝および関連会社の一般社員やOBなどから『日経ビジネス』に寄せられた、800件以上の内部告発を中心に編まれたものだ。東芝の不正会計は、1人の社員が証券取引等監視委員会への内部告発をしたことで明るみに出る。それをきっかけにして堰を切ったようにその実態の告発が噴出したのである。

逆を言えば告発する者がいなければ、いつまでも皆、黙っていたのだ。「物言えば唇寒し」の空気のなかで「王様は裸だ」と声を上げる者が会社を救う。東芝の場合、少々それが遅かったようだが。

JR西日本を変えた「異端と多様性」

さらには組織の同質性が高いと、よけいにものを言えない/言わない集団となり、おまけに複雑性に対して弱くなるようだ。

『巨大システム 失敗の本質』に1990年代末にアメリカで設立された地方銀行のリストがある。そこに載る銀行のうち、半分が2008年の金融危機から2年以内に倒産している。面白いのが、取締役会における銀行家の割合が50%以上の銀行はすべて潰れ、50%以下はどこも生き延びていることだ。

同書は集団実験の結果から、同質な集団は仲間がミスをしたり、疑わしい判断をしたとき、後付けで好意的な解釈をする傾向にあると指摘する。「そういうもんでしょ」と追認しがちになるのだ。反対に多様性のある集団は、話の前提から疑ってかかるため、思慮深くなり、おまけに物怖じしないでものを言う。

そう、多様性こそが生き残る銀行とそうでない銀行の差であった。しかし往々にして会社組織は同質性を好んで多様性を拒み、異端を排除してしまう。

たとえばオリンパスの粉飾決算事件。不正会計の疑惑を知った社長のマイケル・ウッドフォードが菊川剛会長を問い詰めると、菊川は「あなたは日本人の心を知らない」と突き放す。「同じ仲間の罪を暴いて晒すのは、日本人の美徳に反すると言っているに等しい」とそれを聞かされた者は感じたという(チームFACTA『オリンパス症候群』)。そしてウッドフォードは社長を解任されてしまう。

反対に異端が同質性を打ち負かすのが、松本創『軌道』に書かれるJR西日本である。2005年に起きたJR福知山線の脱線事故当時、JR西日本に「天皇」として君臨していた井手正敬は、「事故において会社の責任、組織の責任なんていうものはない。(略)個人の責任を追及するしかないんですよ」と主張。そうした井手の考えに従うようにして、かねて事故に際しては、過密ダイヤや運行システムに目を向けることなく、当事者に懲罰を与えてきた。

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