巨大組織を破滅に導く「ほんのささいな」忖度 上司に「鼻毛、出てますよ」と言えますか?

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人はちょっとしたことで特権意識を持ち、たちまち傍若無人な振る舞いをするようになる。国会で首相秘書官が野党議員をヤジる、あれもそうだろう。権力者はもとより、それによって地位を与えられた者は、慎みを失っていく。

しかし組織の腐敗や事故はこうした者だけが引き起こすのではない。2枚目のクッキーに手を出さないような、慎み深い者らの遠慮もその要因となる。彼らが見逃すことで事態を悪くしていくからだ。

『巨大システム 失敗の本質』を頼りにして、会社組織で起こる失敗を思うとき、言い出しにくい空気と「複雑性」(本書の重要なキーワード)とが絡むことで、その要因が生まれるのだと改めて気づくことになる。

組織を支配する「複雑性」の罠

ここでいう「複雑性」とは何か。たとえばダム。かつては番人が水位を見て放水の必要があると思えば、ゲートを開け、水位もゲートの開き具合も目視で確認していた。それが今では複数のセンサーなどで得られる情報を遠隔で監視するシステムとなっている。これが複雑性だ。

ここでシステムに異常が起きたら……。ゲートは開いたはずなのに、水位が上がっていく。開閉機器のトラブルなのか、センサーの異常なのか、何が何だかわからない。そんな事態に陥ってしまう。

こんな具合に「なにかただならぬことが起きている。しかしそれがなにかはわからない」、複雑性は時に、こうした事象を引き起こす。

それが腐敗の場合は「適法とは言い難い、しかし違法との確信もない」、いわばグレーゾーンのなかで生まれ、「暗黙の了解」として組織に広がっていく。労務問題などはそれがとくに蔓延する領域だろう。残業時間の過少申告などに始まり、やがてタイムカードの書き換えなどが、さも正当な業務であるかのように日常化していく。

そこにあっては、「言っても無駄」どころか、言うと自分の立場を危うくする、いわば「物言えば唇寒し」の空気が組織を支配する。

「複雑なルールがあり、それを自分たちに都合よく利用した」。『巨大システム 失敗の本質』に引用されるエンロン幹部の言葉である。エンロンは莫大な簿外債務などの不正会計によって破産するのだが、複雑な事業モデルと会計ルールが、監査法人や金融当局の目から不正を隠し続けたのである。

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