獺祭チョコレートはなぜこれほど人気なのか こだわりは「磨き二割三分」だけではない
「百貨店の限定商品として企画したもので、担当者が元日本酒のバイヤーだったことから、日本酒を使ったチョコレートにしてみては、というヒントをもらいました。今のように有名ではなかった獺祭の存在も、その方に教えてもらいましたし、ほかの日本酒に関しても、担当者の方が酒蔵に交渉してくれたので、実現しました」(ショコラティエ パレ ド オールオーナーシェフの三枝俊介氏)
獺祭は実はお酒としては異端児的な存在。山口県岩国市にある旭酒造の蔵にて、杜氏や蔵人によらず社員の手で造られており、一連の酒造りの過程は基本的に手仕事によって行われる。また香りを逃がさないため、瓶詰めの後に加熱、冷却する方法をとるなど、日本酒そのものの味わいを生かすため、細部にこだわった丁寧な酒造りがなされている。
とくに、三枝氏がショコラに使用したのは獺祭のなかでも代表格の「獺祭 磨き二割三分」。もともと25%まで精米する予定だったところを、商品が完成する直前に思い直して、さらに2%磨いたという究極の大吟醸だ。精米歩合は当時日本でも最も高いとされた。
だからこそ、クリアな味の奥に、繊細な日本酒本来の味が確かに感じられる味わいに仕上がっているのだ。
日本酒とチョコレートの組み合わせにあるハードル
ただし、このように香りや味の微妙なバランスがおいしさとなっている繊細な酒だけに、チョコレートと合わせることが非常に高いハードルだった。
「そもそも日本酒とチョコレートを比べれば、チョコレートのほうがだんぜん味や香りが強いんですね。加えて獺祭磨き二割三分は日本酒のなかでも透明感のある味ですから、バランスがとても難しかった。また、日本酒とチョコレートは水と油で本来は反発しあいますから、乳化(混ぜ合わせて空気を含ませ、クリーミーな状態にする)させます。日本酒の味を強く出すためには日本酒の量を増やす必要があるが、あまり多すぎると乳化が壊れてしまう。本来の味や香りを損なうので、加熱、濃縮することもできません」(三枝氏)
最終的に出来上がったショコラを旭酒造に送って試食してもらったところ、当時の桜井博志社長(現・会長)から「日本酒とチョコレートなんてどんなものになるかと思ったが、うちの蔵の味が出ている」と喜びを伝える電話がかかってきたそうだ。
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