宗谷本線の存廃は「国家的見地」で考えるべき 日欧の物流を担う大動脈になる可能性も

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一般的には、軌間の違いは台車を交換することで対応される。ただ、ロシア、モンゴル、カザフスタン(いずれも1520mm)と中国(1435mm)との間にも軌間の違いがあり、路線として接続はしていても、やはり台車の交換などが必要だ。

それを考えると、ヨーロッパ―ロシアなど―中国―海路より、たとえ積み替えなどが必要であっても、中国を経由せず、直接、日本の国内各地へ向かえるのなら、メリットは多いはずだ。「宗谷ランドブリッジ」の構築である。

宗谷海峡トンネルの建設は、津軽海峡トンネルより技術的にはやさしいと言われる。しかし、長い工事期間がかかることは明白だ。

かつて、稚泊航路が発着していた桟橋への通路として整備された稚内港の北防波堤ドーム(筆者撮影)

ならば、かつての青函連絡船のように、稚内―コルサコフ間に鉄道連絡船を就航させるのも手だろう。稚泊連絡船の復活だ。日本側からは1067mm軌間の貨車を連絡船に積んで航走。コルサコフに建設する施設でコンテナの積み替えを行えば、トンネル完成までの「つなぎ」になる……と、夢は広がる。

国家的見地で考えるべき宗谷本線

ところが日本では、利用客の減少による経営悪化を理由に、宗谷本線の名寄―稚内間の存続が危ぶまれる状況になっている。

宗谷本線を走る特急列車。通常は4両と編成も短い(筆者撮影)

確かに、現状の札幌・旭川―稚内間の特急3往復と、数往復の普通列車、北旭川までの貨物列車だけでは、大量輸送に利点がある鉄道の特質を生かしているとは言いがたい。

しかし、もしサハリンとの連絡が成れば国家的な利点がある鉄道を、一地域内だけの判断で廃止する、しないと決めてよいものだろうか。ロシアが「その気」になっているのに、日本側では結ばれるはずの鉄道を軽々しく廃止してよいはずがない。大げさに言えば、日ロ間の経済関係の構築に対する、本気度が問われるかもしれない。

これは、北方領土への玄関口、根室へ通じる花咲線(根室本線の釧路―根室間)にも、同じようなことが言えるだろう。北方4島への経済投資をうたう一方で、根元の鉄道を廃止しようという動きを見せているのでは、返還交渉への影響も心配される。千島列島に鉄道があるわけではないが、大量の物資を陸上輸送するなら鉄道に勝るものはない。

こういう路線は、北海道や沿線自治体とJR北海道の間の問題ではなく、国家的な見地からの国際戦略に基づいて維持整備を行うべきではあるまいか。

ヨーロッパからの貨物を載せた貨車が走るとなると、宗谷本線は廃止どころか軌道強化を行い、強力な機関車も用意して、重量級の貨物列車に対応させる必要も出てくるだろう。そうなると、もちろん地方自治体の手に負える話ではなくなる。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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