宗谷本線の存廃は「国家的見地」で考えるべき 日欧の物流を担う大動脈になる可能性も

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しかし、ロシアが「サハリン直通」にこだわるのは、当然ながら貨物輸送をにらんでのことだ。極東の開発はもちろんのこと、その視線の先には日本があることは間違いない。

2018年4月に石井啓一国土交通相と会談したロシアのマクシム・ソロコフ運輸相は、サハリンと北海道を結ぶ鉄道建設案の具体化を望むと発言した。

宗谷海峡への海底トンネル建設案は浮かんでは消えているが、ロシアのほうは一貫して積極的であると見ていいだろう。それに対し日本側の対応は、あまりはかばかしいものではない。

日本と欧州が鉄道で結ばれる?

ただ、もし実現すれば、日本とロシア、ひいてはヨーロッパが鉄道でつながるのである。その効果は計り知れないものがある。現在、航空路を除けば、日本とヨーロッパを結ぶ貨物輸送は、どこかで必ず海路を用いなければならない。

宗谷本線の終点であり、日本最北端の駅でもある稚内(筆者撮影)

到達日数や貨物運賃のことを考えると鉄道がいちばん有利なのだが、島国の宿命で、少なくとも中国沿岸の港までは船便で貨物を運び、鉄道に積み替える必要がある。

この記事を執筆している最中に、韓国と北朝鮮との間の鉄道が再び結ばれ、試運転列車が韓国側から北朝鮮へと乗り入れたというニュースが報じられた。

この朝鮮半島ルートが開通すれば、海路を用いる区間は日本の各港と釜山の間だけになり、所要時間は大幅に短縮される。だが、やはりまだ政治的な安定が完全には担保されていないルートであり、活用されるのは先の話となるだろう。

そう考えてみると、これも「先の話」ではあるが、サハリン経由のルートが確立されることが、日本の経済にとって最も利が大きいのではあるまいか。日本の鉄道が隣国の鉄道と接続されるチャンスは、宗谷海峡をおいてほかにないのだ。

もし、サハリン経由の鉄道ルートが開通したとすれば、もちろん日本側のアクセス路線は宗谷本線となる。他の在来線と同じく1067mm軌間であるから、ロシアとの間で貨車は直通できず、貨物(コンテナ)の積み替えか、異なる軌間でも直通できる軌間可変型車両を用いるといった対応を要する。

けれども、ヨーロッパの主要国(1435mm)と旧ソ連圏(1520mm)の間にも軌間の違いがあり、ポーランド―ウクライナ間では「SUW2000」と呼ばれる、軌間可変型貨車が用いられている。

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