明電舎も標的 ダヴィンチの知られざる豪腕
テーオーシーのMBO(経営陣による自社買収)に横やりを入れたダヴィンチ・アドバイザーズ。明電舎とも水面下で激しい攻防を繰り広げていることが明らかになった。(『週刊東洋経済』5月26日号より)
5月7日、重電メーカー、明電舎の決算説明会。質疑応答で口火を切ったのは、記者でもアナリストでもない、筆頭株主の関係者を名乗る若い男だった。
「御社の株式を10%弱くらい保有させていただいております」とやおら話を始め、明電舎が手掛けるJR大崎駅西口の再開発不動産について「850億円で購入意向の旨を表明しております」と爆弾発言。さらに明電舎が売却に応じない根拠を尋ねた。片岡啓治・明電舎社長は「売るようなタイミングではない」と頑としてはねつけ、緊迫した両者のやり取りは続いた。
異例の質問者は投資業を行う「有限会社アルガーブ」の取締役だった。同社は中堅不動産会社、テーオーシーとの攻防で現在注目を集めているダヴィンチ・アドバイザーズの子会社にほかならない。
東映の株式も買い占め
ダヴィンチ・アドバイザーズは不動産ファンドの運営企業。2006年末には資産残高が1兆円の大台を超えた。取得価格約2000億円で国内最大の不動産取引となった東京駅近くのパシフィック・センチュリー・プレイスをはじめ、ここ1~2年、1000億円以上の都内A級物件を次々に取得。とりわけ昨年3月からは通称「1兆円ファンド」の運用を開始し、資産取得に拍車がかかっている。
同社ファンドの特徴は、都内の大型物件取得とともに、株式への積極投資だ。04年11月に運用を開始した3号ファンドから株式投資を本格化。「1兆円ファンド」では昨年末で15銘柄、500億円に投資を実行した(2銘柄は売却済み)。金子修社長は「今年中にあと1000億円程度は投資する」とし、来年前半にも組成が予定される総額約1.6兆円の次期ファンドでは「もっと大幅に買いたい。4000億円程度は買える余地がある」と豪語する。
同社は、家賃や物件価値に比べ価格上昇にタイムラグのある不動産保有企業の株価に着目する。資産を精査したうえで、PBR(株価純資産倍率)0.6倍以下を投資対象とし、「さらに下がれば買い増し、上がれば売却する」(金子社長)。ただ、それよりも不動産の共同開発や購入こそが真の目的のようだ。
大量保有報告書によると、前出の「アルガーブ」や「プラト」といった系列会社を通じ、冒頭の明電舎や東京機械製作所、イヌイ建物、ユアサ・フナショク、最近では東映、サンテックへの投資が明らかになっている(このほかに信託銀行名義もあるとみられる)。
当初は投資先企業に不動産開発を提案してもまったく相手にされなかった模様だ。金子社長は「企業価値を上げたくない経営者が存在するとは思ってもいなかった。世界ではありえない上場企業が日本にはある」と怒りを隠さなかった。しかし、昨年後半から「(投資先の経営者が)かなりオープンになってきた。氷河期は終わった」と情勢変化に自信を見せ始めている。
中央物産は昨年9月末、野村信託銀行を通じてダヴィンチに大量の株式を握られたとみられる。同社は、所有する「ホテルプレジデント青山」の土地・建物を164億円でダヴィンチ側に売却することを公表済みだ。ダヴィンチはこれをオフィスビルに再開発する。また、上毛は昨年11月、「アルガーブ」に45億円の第三者増資を割り当てた。今後、同社はダヴィンチのファンドを売却の出口とする開発案件を手掛ける方針だ。
ただ、まだまだ具体的成果は少ない。明電舎のように長期化する案件もある。
不動産ファンドの黎明期から市場を切り開いてきたダヴィンチと金子社長。土地だけでなく、株式への投資でも果実を得られるかどうか。投資先各社との間で今後なお激しく火花が散りそうだ。
(書き手:石川正樹、山田雄一郎 撮影:今井康一)
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