流行に乗って職場崩壊「危険な人事制度」2選 「AI人事、分散組織」…御社は大丈夫?

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問題2:型にはまらないとオリジナルなどできない

もう一つの原因は、自由に自律的に動くためには、一定以上の能力が必要だということです。「何かをしたい」という意思を持つことができたとしても、実際にするためには、さまざまな知識やスキルが必要です。「自分らしく働く」ことが最終目標だったとしても、最初からオリジナルなスタイルが突然身につくわけではありません。

よく、伝統芸能や武道などで、「守破離」という言葉が使われます。人がエキスパートになっていくための3段階を指しており、心理学においての熟達のプロセスとも符合する考え方です。

オリジナルスタイルを持つ一人前になるためには、まずは師匠の型を「守る」、つまり完全コピーをする。これが最初の段階で、それができれば次に徐々に「破る」、つまり自分のやりやすいようにカスタマイズしていく。そして、最終的に最後の段階「離れる」、つまり最初の師匠の型とは異なる自分らしいやり方を体現していく、という流れを指します。

このように、最終的に自由になるためには、最初は不自由を受け入れなければならないということなのです。型にはまる「守」の過程がないのに、いきなり「離」を求められてもできないのは当たり前です。

理想の自律型組織をいくら望んでも、メンバーが成熟していなければ、なかなか難しい。ですから、メンバーが未熟なうちは、まるで軍隊のような上意下達の規律正しい組織を作っていかなければならないこともあるのです。

人事制度の「隠れた制約条件」を見つけよう

以上、定期的に流行る理想的な人事のコンセプトである「AI人事」や「自律分散型組織」を例に、それぞれの危険性にフォーカスして考えてみました。

『人事と採用のセオリー』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

マイナス面ばかりを挙げたために、私がそれらの制度や施策について反対派だと思われたかもしれませんが、決してそうではありません。それらの理想的な人事施策を実現するためには、その前提として隠れた制約条件(データの完全性やメンバーの成熟度など)があるのではないかということです。これらの隠れた制約条件を知らずに、流行っているからといって、魅力的だからといって、自組織に拙速に適用しても、その夢は破れてしまうことでしょう。

人事には「ステップ論」が必要です。一足飛びに理想の組織や人事は実現しません。理想にたどり着くには、隠れた制約条件を一つひとつクリアしながら、辛抱強く進んでいく粘り強さや根気強さが必要なのです。

曽和 利光 人材研究所 社長

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そわ としみつ / Toshimitsu Sowa

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書等:『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社、共著)など。

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