アマゾンが「AIラジコン大会」を開催する理由 急成長クラウド子会社「AWS」が巨大イベント

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秘伝技術を明かしたかと思えば、今度は“AIラジコンカー”なるものもお披露目された。AWSが開発した「ディープレーサー」は、一般的なレーシングカーの18分の1サイズで、CPUやカメラ、加速度センサー、ロボット用のOSや画像認識ソフトウエアを搭載する。価格は399ドル。「強化学習」と呼ばれるAIの学習方法を用いれば、人間が操作しなくても模擬的なコースの上を走れるようになる。

アンディ・ジャシーCEOの基調講演で突如発表された自動運転ミニカー「ディープレーサー」。搭載されたあらゆるセンサーから外界の情報を読み取り、運転経路を学習していく(写真:AWS)

現在主流のAIの学習方法に、「教師あり学習」というものがある。たとえば大量の猫の画像を用意して、それを「猫」であることを学習させる。そして猫の画像を読み込むたびにそれが猫だと判断するようになるという仕組みだ。

ただ強化学習は、そうした「教師データ」がなくても、ある目標をあらかじめ設定し、それを達成すると報酬を出すということを繰り返していけば、次第にアルゴリズムの正確性が高まるというものだ。自動運転技術の開発などで用いられることが多い。

AIカーレース大会も開催

なぜAWSがディープレーサーのようなものを開発したのか。これで稼ごうというビジネスモデルではなく、多くの開発者に強化学習の仕組みを学んでもらうためだという。イベントでは、強化学習を適用したディープレーサー同士を競わせるレース大会も開催。今後は世界各地でも大会を行う予定だ。

イベント開催期間中に学習させたディープレーサーで模擬コースの走行タイムを競う大会も開催(記者撮影)

AWS側には強化学習を扱えるエンジニアを増やしたいという狙いがある。昨年発表した機械学習のエンジニアがアルゴリズムを開発しやすくするツール「セージメーカー」でも、今回強化学習に特化した機能を発表。AWSでAI製品マーケティングを統括するジョエル・ミニック氏は、「強化学習はまだ新しい分野だが、今後、インパクトを起こすものだと考えている」と話す。

AWSのサービスの9割は顧客からの要望に基づいて開発されている。だがミニック氏によれば、残りの1割はAWSにおける自社の研究から製品化される。今回の強化学習の場合は後者だ。アマゾンの通販部門の倉庫におけるロボットのオペレーション経験からも、強化学習の必要性がわかったという。企業の強化学習に対するニーズが高まった段階で、AWSのAIサービスを利用してもらう算段だ。

クラウド上でAIサービスを展開するのは、AWSを追うマイクロソフトやグーグルも同じ。しかも両社は産学連携を重視し、研究の専門組織も抱える。むしろAWSはAI分野では後れを取っていると見られていた。だが「急速にAWSが追いついてきた印象がある」(米スタートアップ関係者)。巨大な顧客基盤を武器に、着実に弱みも潰してきたAWSは、どこまで競争をリードできるのだろうか。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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