ゴーン逮捕で想定される最悪の反撃シナリオ ルノーと日産の関係はいったいどうなるのか

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同様に、パリやアムステルダムの物件が、ゴーンの自宅として日産の別の子会社が提供していたことが問題視されているが、ゴーンほどの経営者に対する住宅供与としては社会的常識の範疇という解釈もできるかもしれない。

まだ、今後の捜査で何が出てくるのかわからないが、司法取引まで使って内部告発を摘発したという特捜部が考えるシナリオは、そう簡単な事案ではないだろう。

最も大きな問題は、有価証券報告書虚偽記載という犯罪は「故意」であることが、犯罪を成立させる犯罪構成要件のひとつとして求められている。知らないで不記載だった、とゴーンが主張すれば、検察は「知りながら記載しなかった」ことを証明しなければならない。

仏政府、ルノーの反撃はどう来る?

さて、今回の逮捕劇のベースとなった日産と三菱をルノーに経営統合するというプランだが、ルノーの株式の15%、議決権の30%(フランスの法律で2年以上保有する株式の議決権は2倍になる)を保有するフランス政府が強く要望しているといわれている。

フランス政府は、ゴーンの逮捕によって簡単にあきらめてしまうのだろうか……。日産自動車としては、現在ルノーに握られている43%の議決権を「これ以上増やさない」もしくは「現在の15%の株式保有残高を25%まで増やしてルノーの議決権を無効にする」といった方法が考えられる。

日産はルノーがいなくてもなんとかなるが、ルノーにとっては昨年の収益の4割が日産自動車からの配当であることを考えると、生き残りをかけて日産との経営統合を画策してくることが考えられる。ルノーの筆頭株主はフランス政府であり、そういう意味では資金的には融通が利くはずだ。お互いの株式の購入合戦になると、日産とはいえその資金力に問題が出てくるかもしれない。

今後の展開次第では、TOB(株式公開買い付け)や、LBO(レバレッジド・バイアウト)といった「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」が繰り広げられる可能性もある。また、「ルノーVS.日産・三菱」の戦いだけではなく、今後はそこに第三者が割り込んでくる可能性もある。

ルノーはゴーンの外交手腕によって、さまざまな形での新しいビジネスの目が生まれている。ロシアのプーチン大統領から要請を受けた形でルノーと日産でロシア最大の自動車メーカー「アフトワズ」を完全子会社化しようとしており、さらに中国の国有自動車メーカー「東風汽車集団」との提携も決めている。

ルノーが、簡単にゴーンを会長職から解任しなかったのも頷けるというものだ。

仮に、資本の持ち合い競争になったときに日産側に勝算があるのかどうか。当然、そこまできちんと計算して日産側が反旗を翻したのだろうが、事態はしばしば想定外のところで起こる。日産のような4兆円程度の時価総額しかない企業は、何かことが起こればM&Aの格好のターゲットにされやすい。

これまでは「仏政府対ルノー・日産・三菱」だったのが、今後は「仏政府・ルノー対日産・三菱」という構図になっていく。

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