九州新幹線「長崎ルート」はどう決着するのか フリーゲージトレイン断念で完成図は見えず

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この結果を受けて2018年7月、整備新幹線計画の大元を握る与党検討委員会も「FGTは利便性や整備効果を低下させるだけでなく高速鉄道ネットワークの形成を妨げる」と断を下し、導入を断念せざるをえないとした。20年以上かけてきたFGTが実現できなかったのである。

フル規格決定を望む長崎、望まない佐賀

このような状況に陥って、九州新幹線西九州ルートは先が見えなくなってしまった。佐賀県の置かれた状況は深刻である。新鳥栖―武雄温泉間は全区間が佐賀県内である。仮にフル規格とした場合の追加費用約5300億円に、FGTを導入する場合でも必要となる博多駅ほかの施設改修等に係る額を加えると、約6000億円と見込まれる。これを、従来の整備新幹線建設における財源負担の仕組み(JRの負担分とされる施設の「貸付料」を除いた額に対して、国が3分の2、地方が3分の1を負担)を踏襲し、未定の貸付料を考慮しない場合は、約2000億円の新たな負担が必要と試算されている。九州で最も少ない人口規模で予算規模も全国下から2番目の佐賀県にとって、年間予算の4割以上に相当する額の負担は首肯できる話ではない(1年で払うわけではなく、また交付税措置があるにしても、である)。

”お金”の話だけではない。スーパー特急案が出る前の段階に立てられた整備計画では、現在はほとんどの特急列車が停車する肥前山口駅に駅設置の計画はない。佐賀にも武雄温泉にも15km以内の距離で新駅設置の可能性は乏しく、できたとしても全列車が停車することはあるまい。

佐賀県内で主たる需要が発生する佐賀から博多の間の所要時間は現在の35分から20分になるが、今でも30分少々で往来できる状況では、その短縮がどれほど意義の感じられるものか。山陽新幹線直通で関西に直結しても、日常生活が変化するわけではなく、それより列車本数の減少や値上がりが予想される料金の問題のほうが、日々の通勤と直結する。佐世保線が並行在来線としてJRから分離される心配もある。フル規格新幹線になると、佐賀県はメリットよりデメリットのほうが目立ってしまうのだ。

フル規格におけるこれらの重い負担や恩恵の少なさから佐賀県は、これまでスーパー特急やFGTならば……と、長崎線沿線の一部に苦渋の思いをさせながら受け入れてきた。それは国や隣県、事業者が一堂に会する協議の中で合意されてきたものだ。FGTの頓挫は国の責任に帰するとし、費用問題は国で対処するとしても、ほかの課題は解決しない。いきなりフル規格に切り替えると言われても「受け入れられない」というのが佐賀県の立場である。

新幹線ホームも高架ではなく地平に並べて設けられる諫早駅。まだ基礎工事段階の建設用地の脇を特急「かもめ」が発車(撮影:久保田 敦)
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