野村が最大4100億円の大規模資本増強に踏み切るワケ--進む本業の収益悪化に危機感
野村ホールディングスが、劣後資金で最大4100億円を調達する大規模な資本増強に動き出した。第一生命保険と信金中央金庫を引受先とする劣後特約付き転換社債(1100億円)と、個人向けを中心とする劣後特約付き社債(最大3000億円)を、それぞれ発行する。
金融危機が世界の金融市場と実体経済を急速に下押しする中、野村は相場急変に伴う保有金融商品の損失に加えて、本業が悪化している。破綻したリーマン・ブラザーズから雇い入れた人材の人件費負担なども重なり、今2009年3月期に大幅な最終赤字に陥る公算が大きい。世界的な景気悪化や金融市場の低迷は長期化する可能性もあり、新たな資金調達は、厳しい収益環境に備え、財務基盤をできるだけ厚くしておこう、という狙いがありそうだ。
将来、株式に転換できる権利が付与された劣後特約付き転換社債は、第三者割当方式で発行する。第一生命保険に1000億円、信金中央金庫に100億円を16日にそれぞれ割り当てる。これを株数で換算すると1.47億株で、現時点における野村の発行済み株数の約7.5%に相当する。株式への転換価額は745円、社債の利率は年3.6%に設定した。2010年1月5日~14年3月25日の期間に、株価が転換価額を上回った場合に、いつでも株式に転換できるという。
劣後特約付き社債は、26日を払い込み期日として最大3000億円を発行する。最低購入金額は100万円で、主に個人投資家向けが中心となる見込み。社債の償還は、8年後の16年12月26日で利率は仮条件で年3.6%とした。正式な条件は11日に決定する。全国の野村証券支店を通じて、12日から25日まで販売する。
普通社債に比べて、元利金の返済順位が低い劣後債は、資本金などの中核的資本(Tier1)に次ぐ、資本性が高い補完的項目(Tier2)として、自己資本規制比率の計算に組み入れられる。劣後特約付きの転換社債の場合は、普通株に転換されればTier1に振り替えられる。
野村の08年4~9月期最終損益は、1494億円の赤字。9月15日のリーマン破綻以降は、金融市場をめぐる情勢は一段と悪化しているうえ、リーマンの人員継承やIT子会社買収などの費用が、通期にかけて約2000億円上乗せされる。従来は、証券化商品の評価損や投資先株式の減損など、相場変動に伴う持ち高(ポジション)の損失が、野村の赤字の主因だった。だが、足元では本業そのものも落ち込んでいる。12月15日発売の「会社四季報」新春号では、こうした野村の現況を踏まえて今09年3月期、来10年3月期業績予想を行う。
野村は今年、劣後ローンと劣後債で6000億円を調達したものの、今の収益環境が2~3年続けば、それも吹き飛んでしまう。普通株の公募増資というオーソドックスな資金調達にしなかったのは、低迷する株価の中で増資すれば、希薄化が大きくなるからだ。株式や投信といったリスク性の高い金融資産への投資が細る環境で、満期まで保有すれば元本が保証され、発行体の破綻さえなければ安定的な利回りが得られる債券のニーズが高まりつつある。野村の個人向け社債発行は、それをにらんだ資金調達である。ただ、一方で転換社債の引き受け先が2社にとどまるのは、金融機関や一般事業法人の資金環境が悪化しているのを示唆している面もある。
(武政 秀明 =東洋経済オンライン)
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