「米中戦争」で妥協したいのはトランプの方だ それでも弱い中国との「戦争」を選択するのか

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ただし中国が覇権を狙う以上、再選を優先するトランプ大統領個人の思惑とは別に、国家としてのアメリカが中国との妥協するのは不可能である。

それを代弁するのがマイク・ペンス副大統領だ。反トランプメディアは、トランプ大統領がペンス副大統領に不信感を持ち始めたとのニュースを流し始めたが、中間選挙後、トランプ政権の内部崩壊を画策する政敵に囲まれたなかで、トランプ大統領は、中国とはギリギリまで、妥協と強硬的政策の両方のカードを離さないだろう。

21世紀のトランプも「レーガンの賭け」に打って出る?

最後に、トランプ政権が中間選挙まで中国に対して取った強硬的態度の原点となった、レーガン政権の歴史を変えた成功例の逸話を紹介しておこう。

1980年代のレーガン政権でCIA長官になったウイリアム・ケーシー氏は、それまでアメリカが対共産主義政策で探ってきた「キッシンジャー路線」を完全に否定した。

保守派には、ヘンリー・キッシンジャー氏はソ連の経済力を過大評価しているとの考えがあり、保守派を代表するケーシー長官は、CIAとして当時のソ連経済の規模を測り直した。そしてソ連のGDPは、それまでアメリカが想定した規模の半分と結論づけた。

これはまさに言ってみれば1957年のスプートニクショック以後の米ソの再現だったかもしれない。スプートニクショックは、一般的にはソ連初の人工衛星がアメリカに強烈な危機感を与えた出来事として知られている。だが、その後、アメリカは軍事衛星によってソ連のミサイル総数がそれまでの想定よりもずっと少ない事を知ったのである。時のアメリカの政権はあえて、それを隠し続けた。なぜなら、公表すればアメリカに防衛費削減の機運が高まる恐れがあったからだ(軍産複合体からのアイゼンハワー政権への圧力は、ドワイト・アイゼンハワー大統領自身の退任スピーチで明らかにされている)。

一方、レーガン政権は、ケーシーレポートによってソ連への圧力で「ダブルダウン」(掛け金を2倍にすること)に出た。もしレポートが事実なら、ソ連の経済力ではアメリカとの軍拡競争にはついてこられない。ならば妥協するのではなく、もっと過激な競争へ拡大するべきだろう。実際、ロナルド・レーガン大統領は当時、SF映画のようなSDI構想をぶち上げた。だがこの時のアメリカは財政赤字が拡大し、債権国から債務国へ転落するところだった。アメリカにとっても、ここでの軍拡競争のダブルダウンは大きな賭けだった。

結局、レーガン大統領は賭けに勝ち、ミハエル・ゴルバチョフ書記長のソ連は崩壊した。ならば、カジノビジネスで心理戦を知るトランプ大統領が、中国を相手に「レーガンの賭け」を自分もやってみたくなるのは道理だ。だが今のアメリカの財政状態はレーガンの政権時の比ではないのである。そして、中国はソ連がなぜ崩壊したかを、よく知っている。最終的には、米中の対決は単なる貿易数量から、資本市場での駆け引きに持ち込まれる、と筆者は読む。そうした意味からも、次回は国債市場について触れてみたい。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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