「米中戦争」で妥協したいのはトランプの方だ それでも弱い中国との「戦争」を選択するのか

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この状況に、トランプ大統領が不機嫌になるのは当然だ。早速トランプ政権は戦略の見直しを余儀なくされている。その1つがサウジである。CIA(米中央情報局)が「ジャマル・カショギ氏殺害の命令は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)本人が下した」との報告をしたことで、トランプ大統領も皇太子を守ることが難しくなっている。

あまりにこだわると、これまで水面下だった娘婿のジャレッド・クシュナー氏とサウジのMBSの関係が浮かび上がる。それを結び付けたUAE(アラブ首長国連邦)の駐米大使であるユセフ・オタイバ氏との関係もである。さらに、ロシア疑惑をきっかけに、自分に火の粉がかかるヒラリー・クリントン氏が2016年の選挙では使えなかった、ドイツ銀行を仲介としたロシアマフィアのマネーロンダリングとトランプタワーの実態なども表に出てしまうかもしれない。

これは古いビジネスで刑事罰の対象になる可能性は低いものの、下院で弾劾を起こされた場合、トランプ大統領が、国家の利益よりも一族の利益を優先させているイメージをアメリカの国民に与えるかどうかが最大の焦点になる。そうなると、共和党の上院がトランプ大統領を裏切る可能性が生まれる。

トランプ大統領はすでに「守備的布陣」にシフト

それを百も承知のトランプ大統領は、ここからは守備的な戦略を展開することが予想される。事実対イランでは、新たにサウジに派遣する新任大使を、これまでアメリカ国内では最も親イラン派と目された軍人を据えた。これはサウジのMBSやイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相らと組み、イランを徹底的に締め上げるというイメージを崩すことになる。展開次第では、イランとの妥協も探る道を残した可能性を示唆している。

そして余談だが、守りに回ったトランプの犠牲になりそうなのが、ウィキリークスのジュリアン・アサンジ氏だ。アサンジ氏は、自分を追い詰めたオバマ・ヒラリーの民主党政権への恨みからか、2016年の大統領選では徹底的にヒラリーのあら捜しをして、結果的にトランプ候補を援護した。もちろんトランプ大統領はアサンジ氏との関係は否定してきたが、彼に対する追加の懲罰もしなかった。しかし数日前、トランプ政権内からのリークと目されるような、「トランプ政権がアサンジ氏に対して追加の司法処置へ踏み切る」との情報があった。これは民主党の画策の可能性もあるが、何を隠し持っているかわからないアサンジ氏を敵にするのはトランプ大統領としても覚悟がいる。

いずれにしても、トランプ大統領自身のこの状況を、中国はどうみているか。恐らく、金融市場が期待する妥協があるとすれば、それは中国ではなく、むしろトランプ大統領のほうからの持ちかけだろう。

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