《介護・医療危機》難題抱える訪問介護、職員募集に反応ゼロ、赤字で突然閉鎖も
訪問介護の事業所は現在、三つの大きな難題に直面している。それは、(1)利用者の減少、(2)サービス時間の細切れ化、(3)ホームヘルパー(訪問介護員)の求人難、である。東京都内で9カ所の支店を展開する訪問介護中堅企業の支店長は、「2006年4月の介護報酬改定前と比べて、07年度の売り上げはおおよそ6~7割の水準。これ以上落ち込むと、事業の継続が困難になる」と打ち明ける。
ヘルパーの確保も困難を極めている。別の都内企業では「07年に新聞広告や無料求人誌などで5回の募集を行ったものの、反応はゼロ。社員の紹介で2人を確保できただけ」(同社幹部)という。同幹部は「今までの利益の蓄積は、06年改定後の落ち込みで食い潰した。赤字の埋め合わせで本社から借り入れをしたが、今の状態が続けば、事業自体を見直さざるをえないと本社から通告されている」と話す。
訪問介護事業所の突然の廃業も起きている。今年10月初め、横浜市内の居宅介護支援事業所のケアマネジャーは、突然の知らせに絶句した。
「10月いっぱいで会社を畳むことになりました。赤字続きでやっていけなくなったためです」
事務所にやって来て、突然こう切り出したのは、訪問介護事業所のサービス提供責任者。対応したケアマネジャーはこの事業所に2人の高齢者の訪問介護を委ねていたが、突然の廃業の知らせを聞いて、新たな事業者を探さなければならなくなった。
しかし、「電話をかけても、今は手いっぱいという事業者ばかり。新たな引受先探しは困難を極めた」(前出のケアマネジャー)。利用者との契約が切れる10月末までに新たな事業者を見つけ出したが、「いきなりの廃業のショックは利用者にとっても非常に大きかった」とケアマネジャーは語る。
極端な人手不足 厳しい利用制限も
ヘルパー確保の困難は、ここ数年、著しくなっている。介護労働安定センターの調べによれば、ヘルパーの約8割が非正社員で、その非正社員の約8割が短時間労働者で占められている(下グラフ)。いわゆる「登録ヘルパー」と呼ばれる勤務形態が一般的で、高齢者宅とを直接行き来する「直行直帰」の仕組みだ。しかし、突然の仕事のキャンセルによる収入減など不安定なこともあり、景気回復局面のここ数年は他産業に雇用が流れることが多かった。そのため訪問介護事業所の人手不足は深刻の度を深めていた。
厚生労働省調査によれば、介護関連職種のうち、常用的パートタイムの有効求人倍率は07年度で3・48倍。全業種常用(パート含む)の0・83倍を大きく上回っている。
雇用情勢の激変とともに、訪問介護事業所に打撃を与えたのが、06年4月の改正介護保険法施行と介護報酬改定をきっかけとした厳しい利用制限だ。特に軽度者がサービス時間の短縮(特に掃除や調理などの生活援助)および利用回数の制限を受けたことで、介護報酬が大幅に落ち込んだ事業者は少なくない。
ホームヘルパー全国連絡会の森永伊紀事務局長は、「生活援助の利用制限は、高齢者の生活の質の悪化を引き起こしている。地域からの孤立や孤独死にもつながる」と警鐘を鳴らしている。
(週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら