努力しても「自信が持てない人」に欠けた視点

精神科医・名越康文が教える小さなコツ

もちろん、社会の中での居場所や評価を得ることは、自分に自信を持つうえで大切です。自信を持ちたければ、私たちは普通、仕事を頑張ったり、勉強したり、あるいは人付き合いをして関係を深めようとし、実際そうやって成果を積み上げていけば、ある程度、自信を持つことはできるはずです。

ところが、「自分にどうも自信が持てない」という悩みは、まさにそうやって頑張っている人の中で、芽を出してくる傾向があるんですね。少なくとも「社会に適応している=自信が持てる」という図式が単純に成り立つほど、自信というのは、一筋縄で手に入れることができないものなんです。

一線で活躍してきた人でも「自信を失う」ことがある

イソップ童話に「樫の木と葦」というお話があります。ほんの少しの風に首を垂れてしまうなよなよとした葦を見て、樫の木は「なんだ情けない。俺はどんな風がきても大丈夫だぞ!」と威張っています。そこへ大きな台風がやってきます。葦は大風に吹かれて地面に這いつくばったようにしなっていますが、持ち前のしなやかさでなんとか一晩やり過ごします。樫の木はなんだこんな風くらいと踏ん張っていますが、台風が過ぎたあと見てみると、見事に根本からバキバキバキッと折れて倒れていました。そんなお話です。

子どものころの僕はこの童話がお気に入りで、興奮して母親に何度も「読んで、読んで!」とせがんでいたそうです(変な子どもですね)。

ただ、臨床のなかで多くの人を見ているうちに、僕はこの童話には、深い洞察がこめられていると感じるようになりました。「樫の木」のように強く、何に対しても負けず、戦い続け、勝ち続けて高い社会的地位を築いてきたタイプの人が、自分でも予測できないような思わぬタイミングで、突然「バキッ」と心が折れてしまう。そうすると、それこそ「根本から折れてしまった樫の木」のように、ひどい状態に陥ってしまって、立て直すのに何年もかかってしまう。

私はそういう人を、臨床の中で何人も、何人も見てきました。そのなかで気づいたことは、「樫の木」タイプの人というのは、実は内側に、すごくもろい部分を抱えながら生きてきた人なのだろう、ということでした。

樫の木タイプの人は一度「バキッ」と折れると、なかなか立ち直ることができません。それは心が折れたその瞬間に「ひどい状態」に陥ったからではなく、ずっと前から心の「芯」の部分に少しずつ、少しずつ問題が積み重なっていたからです。

バリバリ一線で活躍してきた人が、直属の上司が左遷されてしまった瞬間、仕事へのモチベーションを失ってしまうということがあります。それまで「信頼する上司からどう評価されるか」ということでモチベーションを支えていたために、それがなくなってしまうと、仕事にどう取り組んでいいかが一切わからなくなる。

「自分に自信が持てない」理由は「何をやってもうまくいかない」というものだけではありません。「樫の木」のように、いろんな問題に対して頑張って、頑張って、頑張り続けた末に、どこかで「無理」が溜まり、あることをきっかけに心が「バキッ」と折れてしまう。そういう人は決して少なくはありません。

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