鉄道会社がアリタリアに買収提案をした事情 フラッグキャリアが「旧国鉄」の傘下に?

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ローマ―ミラノ間の交通機関のシェアは、現地コンサルの調査によれば2008年の時点では航空が50%、高速鉄道が36%、道路交通が14%で航空がトップだったが、2016年には高速鉄道73%、航空18%と逆転しており、航空のシェアは大幅に縮小している。両都市間を結ぶ航空便は、ミラノ都心に近いリナーテ空港発着便がアリタリアの独占、郊外のマルペンサ空港発着便も一部を除き同社の運航だ。鉄道のさらなるスピードアップが実現すれば、航空からのシフトが一層進む可能性は高い。

もしも「疑念」が本当だとしたら……。FSによるアリタリア買収が実現すれば、この「速度制限」が解かれる可能性もあるかもしれない。航空機の利用客を列車の高速化で一気に取り込むという方針を打ち出しても「アリタリア救済が実現するのなら……」と理解を得られることも期待できよう。

一方、疑念は別として、買収が実現すればローマ―ミラノ間をはじめとする国内長距離交通の担い手として、FSグループが航空と鉄道の両方でかなりのシェアを押さえることになる。すると「寡占状況」が発生することになるため、独占禁止法を取り扱う規制当局(具体的には欧州委員会)が買収にあたり「列車本数を減らせ」あるいは「国内航空路線を○○本手放せ」といった勧告を出すことも予想される。

競合他社の動きは?

さらに、航空・鉄道の両面で競合他社がどのような動きを見せるかも気になる点だ。

アリタリアの「買収に向けての関心」を表明しているのは、英国をベースとする格安航空会社(LCC)のイージージェットだ。同社は外国籍のLCCながら、アリタリアが経営体力を落としたことで売却した発着枠を使ってイタリア国内線を運航している。ローマ―ミラノ(マルペンサ)間からは撤退してしまったが、依然としてミラノをハブにナポリなど地方都市への便を飛ばしている。声明では「再建後のアリタリアに対し関心がある」としており、何らかの形でさらなる路線獲得への可能性を探っているのかもしれない。

イタリアの主要駅では、FS(トレニタリア)とイタロのきっぷ売り場が仲良く同居することも珍しくない。写真はトリノ・ポルタヌオバ駅(筆者撮影)

一方、合併の条件としてFSが仮に列車本数を減らす勧告を受けた場合、ドル箱路線の一部を他社に譲ることになる。トレニタリアの高速列車、フレッチャロッサには競合する「イタロ(Italo)」という、全く別資本のオペレータ「ntv」が運行する高速列車が存在する。先述のような理由で速度制限が解除されれば、従来よりさらに短時間で都市間を結ぶ列車を運行し、FSのシェアを圧迫する可能性もある。

「航空会社・アリタリアの救済」に鉄道会社であるFSが乗り出したことで、本業の列車運行のシェア変化をもたらす可能性さえも予想される今回の事態。果たしてどのような形で決着がつくのだろうか。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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