共和党「まさかの上下院完全勝利」はあるのか 一部の市場参加者は「トランプラリー」を予想

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選挙直前の今言えることは、「どんな結果になってもこの国の二極化は一段と悪化する」ということだ。それこそ宇宙人か巨大隕石が地球を襲ってでも来ない限り、分裂してしまったアメリカ人が二極化を避け団結するイメージは浮かばない。そこはオバマ政権時代、積極財政を主張した経済学者のポール・クルーグマン博士が、「今のアメリカは宇宙人が襲来しないと思い切った財政政策を打てない」と嘆いたのと同じだろう。

今のアメリカの状況は、トランプ大統領が大統領執務室で肖像画を眺めている、アンドリュー・ジャクソン大統領(第7代、1829—1837年)の頃と似てきた。なぜかを簡単に説明しよう。

日本ではあまり知られていないかもしれないが、彼はアメリカ初の「ポピュリスト大統領」と言われている。ジャクソン氏は、投票権が、それまでの土地を所有する白人男性オンリーから、奴隷以外の一般男性に拡大された選挙で、チラシなどの新手の選挙手法を持ち込んで当選した。

アメリカでは最も使いやすい20ドル札の顔であることに耐えかねたリベラル勢力は、オバマ政権時代、お札の顔をジャクソン大統領から、リベラル色が強い奴隷出身の女性解放運動の指導者、ハリエット・タブマン氏に変えることに成功した。しかしトランプ政権はその約束を反故にした状態だ(管轄するスティーブン・ムニューシン財務長官は、変更の無期延期を宣言している)。

大統領就任後、東海岸の政治エリートと対立したジャクソン大統領は、途中で全閣僚を入れ替え、最終的に再選を果たした。インデイアンへの圧政など、人権弾圧ではアメリカ史上最悪の大統領のレッテルを張られてきた。その彼の肖像画を執務室に掲げさせたのは件のバノン氏であり、トランプ大統領も、ここまで着実にジャクソン大統領の路線を踏襲しているのではないか。

実は、興味深いのは、ジャクソン大統領は、最終的にはこの国の分裂を避けるために動いたことである。彼は自らも大勢の奴隷を抱えていたことで知られる。だが国を二分しても奴隷制度を堅持するべきと主張したジョン・カルフーン副大統領と対立。副大統領を任期途中で追い出し、その時点での国家の分断をくいとめた。だが、動き始めた「国民感情のマグマ」は止められず、ジャクソン大統領時代から約24年後、アメリカは南北戦争へ突入した。

アメリカの二極化はいつから始まったのか?

現代に戻って、そもそも二極化の始まりはどこだったのだろうか。ジャーナリズムの分野でピューリッツァー賞を3度受賞したトーマス・フリードマン氏はその著書「That Used to Be Us」の中で興味深い記述をしている。ソ連崩壊直後、対アメリカ外交を担当した旧ソ連の外交官と会談したフリードマン氏は、その元外交官から唐突に謝罪されたという。理由は「自分たち(ソ連邦)が消えてしまったことで、アメリカはいずれ窮地に陥る。だから申し訳ない」ということらしい。2008年のリーマンショック後、アメリカの行く末を憂う中、フリードマン氏は本の中でこの元ソ連外交官の「予言」を紹介したのだが、今リベラル代表として反トランプの急先鋒に立つフリードマン氏自身が分断の渦の中にいる。

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