ドコモ通信料金「大幅値下げ」に踏み切る真因 菅官房長官の「4割値下げ」発言が広げた波紋

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だが、ドコモの説明には不可思議な点が少なくない。そもそも、ドコモは新料金の体系自体をまだ決めておらず、詳細はこれから検討する、としている。分離プランの拡大という方向性は明らかにしているが、これもまだ確定事項ではないという。

値下げの実施が5カ月以降も先の話で、中身も“生煮え”の状態だ。そんな状況で「2~4割」という通信料金の値下げ幅や「4000億円」という還元総額などといった具体的な数字を発信することには疑問が残る。

吉澤社長は「ビヨンド宣言(2017年4月に発表した中期経営計画)において、通信は重要なファクターだ。ある程度舵を切るという判断をした中で、お客様還元は中期計画に入ってくる話なので、このタイミングで言わせていただいた」と述べた。ドコモはビヨンド宣言に具体的な数値目標をほとんど盛り込んでいなかったため、この日の発表ではいくつかの目標や指標、新たな方向性を発表している。その中のひとつとして、まだ固まり切ってはいないが、新料金を盛り込んだ、という理屈だ。

ドコモの不可思議な決定の裏に…

今回の発表の中には、「5Gのインフラ構築等投資額として、2019年度~2023年度までに1兆円をつぎ込む」との内容もあった。これに関連して、新料金プランについて会社側は、「今後回線契約がさほど伸びない中で、5Gやスマートライフ領域に注力するという決意の表れだ」などとも説明する。だが、5Gやスマートライフ領域を拡大するための今後の投資もかさむ中で、減収減益になるほどの値下げを断行する、ということにも少し違和感がある。

また、今後も増配は継続し、自己株式の取得などの株主還元も進めていくというが、減収減益を好ましく思わない投資家もいるだろう。

ある関係者は、今回の値下げの舞台裏について、「菅さんのキャリア各社への怒りを誰も抑えられない状況になった。そのため、持ち株(NTT)がやむをえないと判断した」と明かす。そのうえで、「やるのならば、菅さんが納得するレベルでやらないといけない、ということで、この規模での値下げに踏み切った」と言う。確かに今回ドコモが強調した値下げ幅は、菅氏の「4割下げられる」という発言にも符合する。

総務大臣も歴任し、通信政策にも大きな影響力を持つ菅氏の不興を買えば、今後の事業に支障が出る――。そんな思惑がドコモの値下げの背景にあるとすれば、KDDIやソフトバンクもドコモの後を追い、値下げに踏み切る可能性は否定できない。9割のシェアを持つ通信大手3社の料金体系が動けば、格安スマホ業者にも影響を与えるかもしれない。

業界最大手ドコモの決断は、菅氏の希望通り、業界で値下げが進む狼煙となるのだろうか。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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