ブラジルで極右候補が大統領に選ばれた理由 国民は「熱帯のトランプ」に何を期待したのか

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またムルタはこうも述べた。「景気の下降局面では、有権者は最も最近政権を握っていた者たちに厳しい傾向がある」

ブラジル経済は03年から8年間にわたったルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領の時代に「黄金期」を迎え、ルラは高い支持率を誇った。ルラの下でブラジル経済は急速な発展を遂げ、多数の国民が極貧状態から抜け出すことができたが、一方で汚職スキャンダルにより与党PTのイメージは悪化した。ルラの後継者でブラジル初の女性大統領となったジルマ・ルセフは16年、選挙資金をめぐる不正で弾劾され、ルラも汚職罪で収監されている。

支持者や多くのアナリストは、ルセフやルラにかけられた汚職の容疑は左派指導者の信用を失わせるためのでっち上げだと主張する。にもかかわらず、スキャンダルにより多くのブラジル人が、PTに関わったあらゆる人を疑いの目で見るようになってしまった。

「ルラとそれに連なるPTは汚職と失政の象徴になった。10年以上にわたって与党だったPTを、多くの国民はブラジルが抱える問題の元凶だと見ている」と、大西洋協議会ラテンアメリカセンターのロベルタ・ブラガは本誌に語った。

多くのブラジル人が「劇的な変化」を望んでいる

ブラガによれば景気後退や暴力事件の増加、縮まらない社会格差を背景に、多くのブラジル人が「劇的な変化を望み、いわゆる既存の政治勢力に背を向けた」という。多くの有権者は性差別や同性愛者への差別、人種差別といった問題への懸念を抱いてはいたものの、そうしたテーマは今回の選挙ではあまり「重きを置かれなかった」。「安全や失業、経済成長」を巡る懸念のほうが大きかったからだ。

ブラジルの殺人事件の発生率は極端に高い。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、16年の人口10万人あたりの殺人事件数は、アメリカでは約5件だったのに対しブラジルでは30件近かったという。また、失業者の数は1300万人近くに上り、率にして12.1%。経済は元気がなく、GDPはマイナス成長だ。

だが「支持しない」と答える人が多いのはボルソナロもアダジも同じで、決選投票の当日までどちらに票を投じるか決めかねていた有権者は多かった。決選投票の数日前、ブラジリアのジャーナリストであるアランナ・フェレイラは本誌に「投票するかどうか分からない」と語っていた。

「どちらの選択肢もまったくいただけない」とフェレイラは言った。PTはあまりに長く政権の座にいすぎたし、人権問題や環境問題に対するボルソナロの考え方にも懸念が残るというのだ。

「少なくともボルソナロの経歴にはまだ『汚職』はないけれど」とフェレイラは皮肉交混じりに言った。

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