NISAとiDeCo、これが税制面でお得な活用法だ やっぱりよく使っているのは高齢世代だった

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NISAは拠出時に、iDeCoは給付時に、それぞれ課税となる。課税される際、所得税をより少なくするようにできれば、メリットになる。

まずNISAは、稼いだ所得に所得税がかかった後に拠出するから、稼いだ所得により多く控除が適用されてあまり所得税がかからないときに拠出すると、課税負担を和らげられるから、お得だ。一方、iDeCoは、給付時に課税されるが、給付には公的年金等控除という控除が適用され、所得税の負担が軽くなる仕組みがある。とはいえ、給付時にiDeCoの給付以外の所得が多いと、累進課税でより多く所得税が課されることになる。したがって、給付時にiDeCoの給付とそれ以外の所得に適用される控除が多く、所得税がほとんどかからないなら、iDeCoはお得なのだ。

また、60歳になるまでの生活でより多くお金を使いたい人にとって、iDeCoは原則として中途引出しはできないから、不向きである。むしろ、NISAのほうがよい。逆に、60歳以上の生活のために確実に貯めておきたい人にとっては、iDeCoは向いている。

このように、TEE型のNISAとEET型のiDeCoには、それぞれの長短がありながら、個々人の人生設計とニーズに応じて、それぞれに利用されるものである。NISAとiDeCoのどちらかだけあればよいというわけではない。

恒久的なiDeCo、時限的なNISA

そう考えると、iDeCoはすでに恒久的な制度になっているものの、NISAは時限措置(租税特別措置)にとどまっている。老後に備え、国民の安定資産形成を支援する観点から、両者を恒久的な制度にすることが税制面でも必要である。NISAの恒久化は、その観点で重要だ。

しかし、今の時限措置のNISAをそっくりそのまま恒久化するには、問題がある。確かに、つみたてNISAはEET型のiDeCoと並んで、TEE型の貯蓄手段として老後に備えるべく、税制優遇を与える価値はある。

ところが一般NISAは、誰が使っているのか、実態をよく見なければならない。金融庁「NISA口座の利用状況(平成30年6月末時点)」によると、一般NISAの口座における買付額割合を年代別にみると、60歳以上の人が58%、70歳以上の人に限っても29%と、圧倒的に高齢者が利用しているのが実態である。

もう一度確認するが、普通の預金はTTE型ともいうべき形で税制優遇はないのだが、NISAはTEE型の税制優遇がある。運用時に税制優遇を与えているという点がポイントだ。

はたしてNISAの税制優遇を、これら高齢者に与える必要があるのだろうか。ただでさえ、資産保有に世代間格差がある現状で、資産を多く持つ高齢者に税制優遇まで与え、資産形成を支援する必要があるだろうか。高齢者が金融資産を多く持ちたがるのは、老後の医療や介護の費用、予期せざるほど長生きしたときの生活費に備えるためだろう。でもそれは、NISAという形でなく、保険の形で備えるべきものである。

国民の安定資産の形成を支援する観点から、NISAとiDeCoに税制優遇を与えるなら、現役世代(より厳密には公的年金の受給前)の人が活用できるように限定し、恒久的な制度にするとよい。

今秋、内閣総理大臣の諮問機関である政府税制調査会は、個人の働き方やライフコースで受けられる税制上の支援の大きさが違う現状を踏まえ、そうした点に影響されない公平な制度を構築できるよう、個人所得課税のあり方を議論している。その際、公平な税負担の確保や、高齢化の進展、貯蓄率の低下等の構造変化を踏まえ、拠出・運用・給付の各段階を通じた、体系的な課税のあり方について検討することとしている。結論は来年に持ち越されるが、税制優遇を誰に与えるかを決めることが必要だ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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