「アナログ仕事術」を徹底すると感動に繋がる 一ノ坪製作所の「仕事の進め方」に感動

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一見キツイ工程管理を課しているので、従業員の皆さんはさぞ大変だろうな、と思うのですが、職場は意外なほど明るい感じです。そこには一ノ坪社長のさまざまな工夫があります。

「社風を作るのは社長の仕事です。たとえば毎日の決まりごととして、朝礼時のあいさつ合戦があります」

グループに分かれ、2カ月の総当たり戦です。“大きな声で”“相手より先に”“目を見て”“手を肩より上に上げて”などいくつかの採点ポイントで勝敗を決め、最終的な優勝グループに賞品が与えられます。

また年1回発行の「社内報」も社長主導です。全従業員の顔写真が載っているのですが、全員笑顔なのが印象的です。実は「笑顔でなければ載せません」とのこと。一ノ坪社長、結構ワガママです。

皆が楽しめる社内イベントも考えました。1年交替でバーベキュー大会と海外研修旅行があります。前回の研修旅行は、従業員全員で台湾に行き、ジブリで人気のスポット・九份(きゅうふん)散策、お菓子博物館・郭元益見学、そして趣向を凝らした夜の余興大会などで盛り上がりました。楽し気なスナップが「社内報」に掲載されています。

営業マンはほぼ3人

年2回発行の、会社の名前にちなんだ「ツボコミ」という小冊子もあります。同社のオリジナルのディスプレイスタンド「KANI」が映画『シン・ゴジラ』の作戦会議シーンに使われた、という囲み記事や、「KANIが」製品内覧会の様子がイラストで紹介されていたりします。

最後には、英字新聞ならぬ「英二新聞」というコーナーがあり、英二社長の日頃の思いがつづられています。この『シン・ゴジラ』が表紙の号では「アルバイトの方に仕事を覚えてもらうには、自転車の乗り方を覚えてもらうよう、身体を使って覚えてもらう」と書かれています。理詰めでなく、指導に暖かさが感じられる言葉です。

そしてこの冊子、実は同社の大切な営業ツールなのです。「わが社の営業活動は、私と元工場長、デザイナーの3人が主に担っています。原則、企業訪問をしないので、忘れられないよう取引先にこの冊子を送っているのです」と一ノ坪社長。ただ会社宛てではなく、先方の担当者ごとに名前を入れて送っているそうです。この手作り感も同社らしい心配りです。

工場内の大型機械(筆者撮影)

工場見学の途中で、高そうな最新機械をいくつか説明してもらった時に気づいたことがありました。社長が、天井までそびえる機械の説明を熱心にしてくれるのですが、正面に貼ってある紙が気になります。

「あれは、機械の導入年月、購入価格を貼っています。機械の価値を見える化しているのです」との説明。ここにも最新のデジタル機械と、手作りのアナログ表示が見事に融合しているな、と思いました。

人事管理手法も独特です。一ノ坪社長はさらりと言うのですが、年に2回、社員100人全員の個人面談をしているそうです。時間、労力とも大変な負担だと思うのですが、「これも社長の大切な仕事です」と言い切ります。デジタルの上に独自のアナログ手法を加えた現場を作り上げた社長ならではの、血の通った人事管理手法だと思います。

しかし、それやこれやで一ノ坪社長が超多忙。中小企業の社長はスーパーマンでなければいけないんだなぁ、とつくづく思いました。

竹原 信夫 日本一明るい経済新聞 編集長

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たけはら のぶお / Nobuo Takehara

有限会社産業情報化新聞社代表取締役(日本一明るい経済新聞編集長)。1971年3月、関西大学社会学部マスコミ学科卒、同年4月にフジサンケイグループの日本工業新聞社に入社。その後、大阪で中小企業担当、浜松支局記者などを経て、大阪で繊維、鉄鋼、化学、財界、金融などを担当。1990年4月大阪経済部次長(デスク)、1997年2月から2000年10月末まで大阪経済部長。2001年1月に独立、産業情報化新聞社代表に。年間約500人の中小企業経営者に取材、月刊紙・日本一明るい経済新聞を発行している。
 

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