北朝鮮人が恋い焦がれる意外すぎる「職業」 医者の地位はあまり高くない

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ドルなどの国際優良通貨があれば、北朝鮮では圧倒的な購買力を手にすることができる。北朝鮮は歴史的に、貧しい共産圏の中でも特に深刻な物不足にさらされてきた。当局が市場原理の導入を少しずつ進めたことによって、最近は国際優良通貨の魅力は多少減じたとはいえ、変化はごくわずかでしかない。

北朝鮮の為替相場を見ればすぐにわかるが、「ぱっとしない収入」を外貨で得るほうが、「まずまずの給料」を北朝鮮ウォンでもらうよりも、はるかに価値がある。

海外に出稼ぎ労働者として派遣されるのが、北朝鮮人の間で大変な特権と考えられているのは、このように外貨が猛烈にありがたがられているからだ。海外メディアでは、シベリアの森林やサウジアラビアの砂漠、時にはポーランドの造船所にまで送り込まれる北朝鮮出稼ぎ労働者の悲惨な話が今も繰り返し報じられている。このような報道では、出稼ぎ労働者は「強制労働」や「現代の奴隷制」の犠牲者として描かれている。

出稼ぎ労働者になれるのはエリートの一部

確かに労働条件は過酷だ。1日12時間労働が普通で、休みもほとんどない。労災は極めて多い。にもかかわらず、健康で丈夫な体を持った北朝鮮の男性にとっては、海外への出稼ぎは今も夢の仕事であり続けている(女性は少し前まで出稼ぎで海外に出ることは許されていなかったが、最近は状況が変わりつつある)。その証拠に、出稼ぎ労働者になるには多額の賄賂を渡す必要がある。誰が賄賂を支払ってまで「奴隷」になろうとするだろうか。

ロシアに渡航するには、およそ400ドルかかるとされる。中東となれば、費用はもっとかさむ。こうした賄賂を負担できる能力と意思に加えて、出稼ぎ希望者は完璧な政治的バックグラウンドを備えていなければならない。たいていの場合、これは朝鮮労働党の党員であることを意味する。つまり、北朝鮮社会の上位25%の中でも、その一部しか出稼ぎ労働者にはなれないということだ。

理由は簡単だ。海外への渡航は社会主義思想に与えるリスクが高く、出稼ぎによって金持ちになる人物も少なくないからである。たとえば、ロシアへの出稼ぎで標準的な3年間の任期を全うした労働者は、3000〜5000ドルを北朝鮮に持ち帰ることになる。小さな店を手に入れたり、小規模なビジネスを立ち上げたりするのには十分な額であり、これにより家族の生活も安泰となるだろう。

同様の理屈で、海外に出かける船員も憧れの職業になっている。北朝鮮船の労働条件は海外出稼ぎ労働者とたいして変わらないが、出稼ぎ労働者と違って船員には手当が外貨で支給される。さらに、船員は北朝鮮と海外の内外価格差を利用して一儲けすることもできる。

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