台湾脱線「ギリギリのダイヤ」で走っていた? 日系企業、今後の入札に影響受けるおそれも

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時刻表を見ると、新馬駅手前の宜蘭駅で、当該列車は8分の停車時間が設けられている。これは当列車に限ったことではなく、どの特急列車も5分~10分の停車時間が設けられている。本来、所要時間を重視するはずの太魯閣号・普悠瑪号もこのような余裕時分を取っているのは、何らかの理由で遅れた場合にこの停車時間で時間調整を行って帳尻を合わせているからだ。つまり、普段は限界に近い速度で各駅間を走っていることを示している。

単線区間を走行する台東発着列車は遅れることもしばしばで、時刻表上は数分の時間調整が行われることになっていても、実際はすぐに発車することも多いと言う。台鉄にしばしば乗車する日本人も、太魯閣号・普悠瑪号に乗ってみると、本来の規定速度以上のスピードで走っている感じがすると声をそろえる。空気ばねによる車体傾斜式の普悠瑪号は振り子式の太魯閣号に比べ、カーブ時の傾斜角度が小さくスピードが出せないため、若干所要時間を多く取ってある。だが、実際には普悠瑪号の揺れを指摘する声も多い。台鉄が、オーバースペック気味に車両を使用していた可能性は否めない。

今後の入札に影響必至

おりしも、去る10月15日に台鉄では新型特急電車納入に関わる入札プロセスが締め切られたばかり。しかし、応札数が規定に満たず、流札となってしまった。

今回の事故が、今後の特急車両導入計画に何らかの影響を及ぼすのは確実だろう。スピードよりも安全性重視の方針に傾くとしたら、受注を目指していた企業は戦略見直しを迫られる。特に今回の新型特急電車には、日系企業も関心を示していたと言われており、日本にとって今回の事故は痛手にもなりかねない。

先述の通り、日系メーカーは車体傾斜機能を持つ特急車両を相次いで導入している。特にTEMU1000型の導入実績のある日立製作所は、振り子機構の製造に秀でており、オンリーワンの技術である。

コストダウンと安全性向上のため、車体傾斜を行わない一般型特急導入に台鉄が舵を切るとすれば、日本勢のアピールポイントが一つ消えることになる。少なくとも、今回の事故当該車両が日本製ということが、諸外国から追及されるような事態は絶対に避けなければならない。精細な事故原因の究明を願うとともに、車両メーカー自身が車両スペックや安全性を開示し、調査に協力するなど、我が身を守る対応も必要になってくるのかもしれない。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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